UAE各地で発生した洪水の映像がソーシャルメディア(SNS)に投稿されると、多くの報道機関や観測筋はクラウド・シーディングが原因ではないかと憶測した。クラウド・シーディングとは、人工的に雨を降らせるために雲に粒子を放出する技術で、特にUAEのような降雨量の少ない乾燥した地域で利用されている。
今回発生した洪水の前にクラウド・シーディングが行われたかどうかを巡っては、相反する報告が交錯している。UAEの気象学者アハメド・ハビブは米ブルームバーグ通信に対し、15日から16日にかけてクラウド・シーディングの飛行機が飛んでいたと証言した。これに対し、国立気象局は同通信社の取材で、クラウド・シーディングを実施したのは14日と15日だと説明。ところがその後に行われた米CNBCの取材では、クラウド・シーディングは洪水の前には一切行われなかったと説明を一転させた。一方、米AP通信は15日にUAE上空を飛行したとみられる国立気象局所属の飛行機を追跡していた。これについて、同局からのコメントは得られていない。
今回の記録的な大雨はクラウド・シーディングのせいではなく、気候変動が原因だと考える専門家もいる。クラウド・シーディングによって増加が可能な降水量は約10~20%との試算もあり、UAE当局は、この技術による年間降雨量の増加分は10~30%程度に過ぎないと見積もっている。
クラウド・シーディングがUAEの洪水を引き起こしたという憶測が広がる中、英レディング大学のマーテン・アンバウム気象学教授は「今回のような降雨現象を作り出したり、大幅に変化させたりする技術は存在しない」として一蹴した。その上で、複数の気象予報士が1週間前から洪水の危険性について、極めて正確に予測していたと指摘。今回の大雨は、水蒸気が熱によって大気中に吸い上げられ、雷雲が発生した結果であり、雷雲は次々と発生するため、大量の雨を降らせることがあると説明した。同教授はまた、大気の温度が高いほど多くの水蒸気を含むことができるため、今回のような激しい降雨は、地球温暖化によって激化する可能性があると警告した。
これに賛同する専門家は他にもいる。オーストラリア国立大学気候・エネルギー・災害研究所のロズリン・プリンズリーは米誌タイムの取材で、洪水の原因をクラウド・シーディングに求めるのは「陰謀論」だと批判した。