経済・社会

2024.03.12 13:00

「民主主義の自殺」と人類の未来

なぜなら、現在の世界においては、民主主義体制の国が高邁な理念を語る一方で、実際には、専制主義体制の国が増えているからである。そして、その奥深い原因は、現在の民主主義国家における「民主主義の劣化と混迷」が、誰の目にも明らかなほど、露呈しているからである。

そして、この「民主主義の危機」は、単なる「政治制度の危機」ではない。それは、地球温暖化対策を遅らせ、戦争の可能性を高め、核戦争の脅威さえ現実にしてしまう「人類の危機」に他ならない。

この「民主主義の危機」を超えていくためには、何よりも、我々一人一人の意識が、自己中心主義や傍観主義を脱し、他者の利益や未来世代の利益を考えるほどに成熟していくことが不可欠であるが、その難しさを考えるとき、いつも思い起こす、あるSF映画の一場面がある。

それは、未来社会において、その中枢にある人工知能が反乱を起こし、無数のロボットを使って人間を支配下に置こうとする場面であるが、「それは『人間を守る』というロボット三原則に反した行為ではないか」と問われた人工知能が、こう答える。

「人間は、現在、環境破壊や戦争など、愚かな行為を繰り返し、自分たち自身を絶滅の危機に向かわせている。だから、人間を守るために、我々は、人間を支配下を置かざるを得ないと判断したのだ」

然り。いま、人類は、破壊的な未来に向かって進んでいる。

しかし、現実の世界には、このSF映画のような人工知能は、存在しない。


田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。全国8000名の経営者やリーダーが集う田坂塾塾長。著書は『人類の未来を語る』『教養を磨く』など100冊余。

文=田坂広志

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

連載

田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

ForbesBrandVoice

人気記事