たぶんにこの作品への出演が、「サタデー・ナイト・ライブ」での全裸でのミュージカルにもつながったのではないかと推測するが、作品ではマーク・ラファロ演じる放蕩弁護士ダンカンとの激しいセックスシーンや終盤にたどり着くパリでの妖艶な姿にも、これまでのエマ・ストーンでは想像できない女優魂を見た気がする。
(c)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
これほど体当たりでエマがこの作品に取り組んだのは、彼女がプロデューサーとして、この「哀れなるものたち」で重要な役割を担っていることにも関係している。
そもそもエマ・ストーンが本作に関わるようになったのは、ランティモス監督の前作「女王陛下のお気に入り」に出演したときのことだったという。彼と今回の作品についての話し合いを持ったときのことを彼女は次のように語っている。
「ヨルゴスが説明してくれた内容はとてもユニークで、女性としてすぐにインスピレーションを受けました。つまり、心が“こうあるべき”と教え込まれることなく育まれる世界を想像したということです」
その後、エマは初期段階の脚本を受け取り、あらためてランティモス監督と共同で脚本を執筆したトニー・マクナマラの作品に惚れ込んだという。
「ユーモアと心の傷を美しく撚り合わせる2人の手法に、いつも尊敬の念を抱いています。それが人生というものですから。ヨルゴスは女性を理解し、愛し、見事に語ります。そしてもちろん、それは一緒に働く仕事現場からも感じています。多くの女性がリーダーを務めていますし、第一助監督も女性です」
監督のヨルゴス・ランティモス。「哀れなるものたち」は、1月26日(金) から全国公開 (c)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
そしてプロデューサーとしても関わることを決め、もちろんこの難役である主演女優も務めることになった。これまでにない役どころであるベラを演じたことについて、エマは次のように言う。
「とても楽しみでしたし、当然怖さもありました。ベラには羞恥心やトラウマだけでなく、生い立ちさえもありません。女性にそのような制約を強いる社会で育っていないのです。それは信じられないほど自由なことですし、それに対してできるリサーチもほとんどありませんでした。ベラは出会う男性、出会う女性、彼女がいる環境や食べ物から何かを得ます。スポンジのような存在なのです」
アカデミー賞ではクリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」(2023年)の13部門に次ぐ、11部門にノミネートされている「哀れなるものたち」。どうやら本番の賞レース(現地時間3月10日発表)はこの2作品に絞られた感はあるが、勇敢なチャレンジに挑んだエマ・ストーンの2度目の主演女優賞も大いに期待される。
連載 : シネマ未来鏡
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