経済・社会

2024.01.25 14:45

避難民の90%は低・中所得国へ 難民支援にいま必要なこと

督 あかり
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ウクライナ危機やベネズエラ危機に対応するヨーロッパや中南米の国々、シリア難民を受け入れているトルコなど、いくつかの難民受け入れ国は、すでにこうした政策を実施しています。

その理由は、包摂性の確保が支援コストの大幅な削減に繋がるためです。世界銀行の研究によると、チャドでは、難民支援に年間5億3300万ドルかかりますが、彼らに働く権利を与えるとそのコストは2億7000万ドルに下がり、働く権利に加えて自由に移動する権利を与えると、さらに1億5200万ドルまで削減することができます。

とはいえ、受け入れ国やコミュニティが難民の包摂を推進するためにはコストがかかります。グローバル公共財である難民保護に多大な貢献をしている受け入れ国やコミュニティが背負う負担は、広く分かち合われるべきです。避難民の90%は開発課題を抱える低・中所得国に住んでおり、UNHCRと世界経済銀行は、こうした現状を踏まえた支援にコミットしています。

受け入れ国への国際的支援は不可欠ですが、同時に、企業、財団、都市、NGO、支援団体など幅広いステークホルダーによる協力も求められています。持続可能な世界経済への最も確かな道である経済的包摂と雇用創出を、私たちは促進しなければなりません。

ケニアのカクマ難民キャンプおよびカロベイエ難民居住区では、UNHCRと世界銀行による企業を巻き込んだ取り組みが進展しているほか、コロンビアでは、小口融資の提供を受けたベネズエラ難民が小規模ビジネスを立ち上げて同国の経済に貢献するなど、難民の包摂を目指す取り組みは着実に前進しています。

予防策への投資

最後に、予防策への投資も極めて重要です。受け入れ国と国際社会が最優先すべきは、人々が避難を強いられる事態の発生を減らし、安全かつ尊厳ある難民の帰還に向けた環境条件を整えることです。私たちのような組織は、不安定な情勢が続く国や地域の平和と安定を築く役割を担っていますが、紛争の解決、平和の醸成、社会契約の更新は複雑で、マルチステークホルダーによるアプローチが求められます。

スイスのジュネーブで開催された「第2回グローバル難民フォーラム」は、難民危機への対応策を見直す重要な機会となりました。長引く難民危機に対処するためには長期的な開発が不可欠であり、同時に、紛争と避難の根本原因に対処する必要があります。また、受け入れ国が包摂的な政策を採用すれば、私たちは混沌とする世界に希望を見出すことができるでしょう。

(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)

連載:世界が直面する課題の解決方法
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文=Anna Bjerde, Managing Director of Operations, The World Bank; Filippo Grandi, United Nations High Commissioner for Refugees, (UNHCR)

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