海外

2023.12.31 11:30

「シリコンバレー」を日本でつくるには スタンフォード前学長に聞く

露原直人
──こうした波を作るにはどうしたらいいのでしょうか?

波は誰にも予想できないものです。AIの波が大きくなり始めたのは、おそらく5、6年前のことでしょう。今日の生成AIのブレークスルーを、当時予想した人はいなかったと思います。

最初に検索エンジンの先駆けとなったヤフーのデモを見た時のことをよく覚えています。創業者のジェリー・ヤンとデビッド・ファイロがオフィスにしていたトレーラーに行くと、ピザをオンラインで注文できる機能を見せてくれました。私はそれを見て、「なんてこった、ワールドワイドウェブは、科学オタクが論文やデータを交換するためだけのものではないんだ!」と衝撃を受けたものです。数年後、Eコマースは爆発的に普及しました。同じように、スティーブ・ジョブズが、ゼロックス・アルトを見てから、実際にマッキントッシュを発表するまでに、おそらく6、7年はかかったはずです。

このように、シリコンバレーは、このような大きな変化、波が生まれる場所なのです。波に乗るには、波が生まれる場所にいるべきです。

──シリコンバレーに集まる才能は、どうやって予測できない波に向き合い、答えがわからなまいまま挑戦を続けられるのでしょうか?

「誰も答えを知らない」というのは、その通りだと思います。世界中の起業家で、スタート時に答えを知っていた人はいないからです。フェイスブックがいい例でしょう。フェイスブックは最初のソーシャルメディア企業ではありません。フレンドスター(SNSの草分け的存在)のように他にも同様のスタートアップが何社もありました。失敗する可能性は十分あったのに、何とか成功した。彼らはやりとげたのです。

もし、あなたが自分の研究を、論文として発表するだけでなく、起業家として世界に発信し、世界を変えたいと考えているならば、シリコンバレーは世界で一番いい場所なんです。ここでは、誰もが「地図」を手に入れることができる。技術への理解と才能があり、望めさえすれば何でもできるような人たちが、「将来性のある技術を見つけて、起業する」という強い決意を持って集まっているのはそのためです。

シリコンバレーの発展には30年以上かかっている

──日本の大学でもスタートアップを支援しようという議論が活発になってきました。日本の大学はどうやって進んでいったらよいでしょうか?

簡単なことから始めるのが良いと思います。スタンフォードには、学生を訓練するためのカリキュラムが、ビジネススクールでも工学部でも、学生のバックグラウンドに応じて作られてきています。このような枠組みは数十年にわたって形成されるもので、一朝一夕にできるものではありません。

みんなスタンフォードにやってきて、「シリコンバレーを5年で作りたい」と言うんです。でも、私たちは30年から40年かけているわけです。

シリコンバレーが今日のように発展し始めたのはいつなのかと言えば、おそらく1980年代のどこかでしょう。ヒューレット・パッカードが創業してから50年後のことです。


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インタビュー=熊平智伸、高梨遼太朗、芦澤美智子 文=芦澤美智子 撮影=高梨良子 編集=露原直人

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