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2024.01.10 09:15

計画を記号に表すことがデザイン。県外から移住、「鯖江発」で注目される理由

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以下は2023年Forbes JAPAN「スモール・ジャイアンツ イノベーター」に選ばれた、TSUGI代表 新山直広氏に関する記事である。
 

福井県鯖江市に拠点を置く合同会社TSUGI(ツギ)は、地域を盛り上げるローカルクリエイティブカンパニー。メンバーのほとんどが県外から福井へ移り住み、「福井を創造的な地域にする」ことを責務にしている。同社の代表兼クリエイティブディレクター、新山直広さんも移住者のひとり。デザインの力を多方面に展開し、地場産業の魅力をさらに引き出し続けてきた。眼鏡を始めとした産地としての福井のポテンシャル、デザインが地域に与えるポジティブな影響などを伺った。

新しい価値を創り出す、福井の地場産業

地域密着型のTSUGIが抱くのは「福井県の仕事しかしない」という熱い想い。商品開発では地域が持つものづくりの力に、TSUGIのデザイン力を掛け合わせ、福井ならではの商品を開発している。

鯖江の眼鏡メーカー谷口眼鏡と立ち上げたのは、日本人に似合うクラフトサングラス「tesio」。

「眼鏡をどこに卸すかといったら、基本的には眼鏡屋。サングラスを作ればアパレルなど違う販路を作れると思いました。ですがリサーチしてみると、日本人にとってサングラスはちょっと敷居が高い。ただ、目を守ることを考えたら、サングラスは使った方がいい。日本人の顔にも合う、普通のサングラスが欲しいと思ったんです」

アジア人の顔に合わせて設計し、気負いなく着用できるようなサングラスにこだわった。

「越前和紙の老舗工房の五十嵐製紙さんという会社とは、紙文具ブランド『Food Paper』を開発しました。廃棄される野菜や果物から紙を作ったのですが、アイデアは五十嵐製紙さんのところの息子さん。当時は小学生で、自由研究で人参やミカンの皮、セロリで紙を作っていたんですよ。それを見た僕はもう『天才見つけた……!』と震えあがって(笑)」
 
Food Paperでは、ノートやメッセージカードなどの文具から、サコッシュや小物入れなどの雑貨も展開。SDGsとも親和性が高く、国内外を問わず多くの国のメディアにも取り上げられた。

「ワイン工房から、ブドウの搾りかすを使ってラベルを作ってほしいという依頼もありました。そういった新規の問い合わせが続々来ています。ピーターラビットの出版120周年のときは、渋谷駅の巨大なアート広告にFood Paperを使ってもらったりしたことも」

福井で生まれたアイデアや技術が、地域の外へどんどん広まっている。それでも地域密着にこだわるのはどうしてだろう。

「僕が福井の仕事しかしない理由は、やっぱり自分が住んでいる地域を良くしたいし、娘が成長したときに、福井をダサい町だと思ってほしくないから。田舎なのでテーマパークとかがあるわけじゃない。遊びは自分で発明できるように、いつも頭をモヤモヤさせています(笑)」

建築からコミュニティデザインの道へ

京都精華大学建築学科出身の新山さん。「精華大で学んだことは、サバイバル精神!」と、笑顔で語ってくれた。

「18歳のときに両親が亡くなって、奨学金を借りて大学に入りました。『元取らなあかん!』と思って一生懸命勉強してたんですよ。お金がないから家賃がもったいないし、大学に住んでるような感じ(笑)。建築って面白い学問で、家具から都市計画まで幅広い。リサーチも重要だし法律も学ぶ。そうしてプランニングしてコンセプトを決めてデザインのアウトプットする。今やってる仕事とほぼ一緒ですね」

卒業後は設計事務所に入ることが決まっていたが、大きく舵を切る出来事があった。

「その頃は2008年で、日本の人口がピークだったり、住宅の全国的な着工数が初めて落ちた年でもありました。リーマンショックも起きて、時代の潮目がすごく感じられて。それまではずっと建築家になるために勉強してきたけど、これからの時代に建物をどんどん建てるのはナンセンスなんじゃないかと思ったんです」

そうして、新山さんの人生を変えるイベント「河和田アートキャンプ」に出会った。

「河和田の町に一カ月間住みながら、アートプロジェクトに参加しました。建物を建てるのではなく、ソフトのアクティビティを計画するのがめちゃくちゃ面白くて」

鯖江市河和田地区は「うるしの里」と呼ばれる工芸がさかんなエリア。河和田アートキャンプは2004年の福井豪雨をきっかけに始まったイベントで、地場産業や地域資源をアートに活用。地域を盛り上げることを目的とし、学生ら若いエネルギーを呼び込んでいる。

「大学卒業と同時に、河和田アートキャンプを主催している建築学科の先生がまちづくり系の会社を作ったので、僕もそこに入れてもらいました。コミュニティデザインという文脈で、まちづくりがしたかったんです」

新山さんが思う、コミュニティデザインとは。

「僕はデザインとは、設計・計画だと考えています。デザインの語源は『designare』というラテン語で、計画や設計を記号に表す、という意味なんですよ。日本ではデザインというと衣装のことばかり連想されがちですが、僕としては建築のような設計・計画は、そのままコミュニティデザインに繋がっています」

まちづくりに必要なチームビルディング

2009年、移住者第一号として河和田に引っ越した新山さん。河和田アートキャンプの運営事務局の仕事のほか、地域の工芸に携わることに。

「市からの委託事業で漆器の調査をしました。一年目の調査では町の職人さんなど100件位回って話を聞いたのですが、大体返ってくる答えは『もうオワコンだよ』みたいな感じ。二年目には都会の百貨店やショップを回って漆器の消費調査をしましたが、漆器はほとんど売られていなかった。越前漆器を見つけ出すなんて、ほとんど至難の技」

「まちづくりがしたくても、ものづくりが元気にならないと町も元気にならない。ものづくりで手伝えることが何か考えてみると、この町に圧倒的に足りていないのはデザインでした。僕がこの町のデザイナーになろうと思ったんです」

移住二年目に立てた目標は、地域のものづくりを販売までサポートするデザイナーになること。まずは地域についてもっと知る必要があった。

「青年団に入ろうと思ったら青年団がとっくに解散していて、紹介してもらったのが壮年会というおっちゃんたちのグループでした。僕がデザイナーを目指していることを伝えると、『俺はデザイナー大っ嫌いじゃ!』みたいな(笑)」

「いろいろ話を聞いて思ったのは、この街でデザインをするならば、流通や販売まで手伝わないと全然通用しないということ。だから僕は流通まで案内できるデザイナーになろうと思い、独学で勉強を始めました」

一時は東京のデザイン事務所で修行することも考えたそう。

「でも僕が移住者第一号だったので、『出ていかれちゃまずい』と引き止められまして(笑)。鯖江市役所の商工政策課の方の下で、ウェブマガジンの運営や広報のデザイン周りの仕事をするようになりました。仕事は楽しかったのですが、海外に生産拠点を置く安価な眼鏡小売店が伸びてきた時期で、鯖江の眼鏡屋が結構潰れちゃって……。行政だとどうしても公平公正というルールがあるので、産業振興が難しい。かといって自分一人でやれることはたかが知れている。そんな中、同世代の仲間を増やしたいと考えていました」

鯖江市の移住者も増えてきた頃、まちづくりのための新しい第一歩を踏み出した。

「2013年にTSUGIというチームを作りました。ほとんどが河和田アートキャンプの出身者で、木工や眼鏡、環境NPO、地元の出版社などのメンバーが集まりました。みんなで建物をDIYで改装したんです。スペースを作ってトークイベントやワークショップを開催したり、地域の新聞社と食のイベントをやったことも」
 
「僕が一番やりたかったのは流通までできるデザイン事務所。そう思って、2015年にTSUGIを法人化したんです。『創造的な産地をつくる』ことをビジョンにしていたのですが、最近は『福井を創造的な地域にする』へ変えました。作るだけの産地から、作って売るところまでどう持っていくかというところをやりたいですね」

創設時は2人だけだったスタッフも、今は10人以上に。クライアントワークをメインの仕事とし、売上も2000万円から1億5000万円以上へ成長した。

「まちづくりって本当に面白い。こうなったらいいなというものを思い描いて、この町の強みを見つけて仲間を増やしていく。決して一足飛びではできなくて、少しずつできてくる。僕一人でやっていたら玉砕します(笑)。僕みたいな『始める』役割、それから『支える』役割の人、『まとめる』役割の人がいるとうまくいく。まちづくりは決して一人ではできないですね」

地域課題にも人にもオープンな産地として

地域を元気にするために、デザインの力を駆使してきた新山さん。2022年には地域の企業と協力し、介護服「keamu(ケアム)」でグッドデザイン賞を獲得した。

「グッドフォーカス賞という特別賞をいただきました。福井にホテルのルームウェアを作っている冨士経編株式会社さんがあるんです。ホテルのリネンは、大きな洗濯機で洗ってからワーッと乾燥するので、(服に)強度が必要。冨士経編さんは、強度の高い服を作れるような技術を持った会社なんです。ケアムを作ったのは、これからもっと在宅医療が増えることを考えたのがきっかけでした」
 
高齢化は多くの地域が抱える課題のひとつ。そんな地域課題に向き合ったのがケアム開発だった。

「市場に出回っている介護服って、オシャレなものは少ないんです。介護される人もテンションが下がるし、介護してる人も親のそんな姿見たくないと落ち込んだり。なので、外でも着れるようなデザイン性がありつつ、機能性もちゃんと備えた介護服を作りました。袖下から脇まで大きく開くことができるので、着脱しやすいんです」

パターンとデザインは無印良品のレディースラインを担当しているファッションデザイナー引野謙司氏に依頼。

「グッドフォーカス賞と言われているように、未来に対する視点も評価されたんじゃないかなと思っています」

TSUGIではイベントも開催し、地域のものづくりを外に向けてオープンにしている。

「鯖江市、越前市、越前町で『RENEW(リニュー)』というオープンファクトリーイベントを2015年から開催しています。工房や工場を見学できる体験型イベントです」

RENEWでは、越前漆器や越前和紙など普段はなかなか入ることのできない工房や工場を見学可能。作り手の想いに触れることができる、国内最大規模のオープンファクトリーイベントだ。

「地域に小さな産業革命が起きたんですよ。大げさな言い方に聞こえるかもしれませんが、RENEWをはじめて10年間で新規店舗34店がオープンしたんです。ファクトリーショップと呼ばれる、工房の直営店が多いですね。RENEWをきっかけに雇用も増えました」

「とはいえ、産地全体の売上は落ちています。ですがファクトリーショップなどを開いた2代目3代目の人たちのお店の売上は、むしろ上がっているんです。社会変化もあるとは思いますが、産地に意識変化が起きて、地域の人が努力をしたことが大きいんじゃないかな」

福井に飛び込んで約15年。コミュニティデザインの道は試行錯誤の連続だという。

「僕の役割って、地域の中で根を張って地域資源を見つけ、編集して価値化させることなのかなと思います。15年くらい住んでいると、地域の中の人の気持ちもわかるし、外の人の気持ちもわかる。その潮流みたいなものがすごく重要だと思っていて、どっちも噛み合う状況を作りたいですね」

地域にデザインの力が加わると、地場産業や担い手たちがもっと輝きだす。福井にはポテンシャルを秘めた企業やプレーヤーがまだまだいる。TSUGIがどんな風にコミュニティをデザインしていくか、これからも目が離せない。




この記事は、読むふるさとチョイスから転載したものです

文=鈴木舞

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