DeSciとは、既存のサイエンスが抱える問題を、ブロックチェーンなどの技術で民主化することで解決を目指すサイエンスを指す。現在、DeSciには、主に3つの領域がある。
ひとつは、「DAOを使ったコミュニティ駆動型の研究支援」。例えば、トークンを発行し、得られた資金を使って長寿研究を支援する「VitaDAO」。トークン発行によって得られた資金を使って研究支援する、いわばトークンを通じたクラウドファンディングだ。
次に、「IPやデータとNFT(非代替性トークン)をひもづけた、新たな市場の創造」。例えば、「Ocean Protocol」は、データをNFTと結びつけるデータNFTを提供し、AIの学習データ等の取引を行う市場を構築している。企業のなかにIPやデータが埋もれずに利用されることで、企業の独自開発による研究開発費の高騰を防ぐ狙いがある。
そして、「研究者のコミュニティ支援」。例えば、論文が学術雑誌に掲載されるかどうかは、査読と呼ばれる研究者たちの多くは無償のチェックによって支えられている。DeSciの研究コミュニティでは、ブロックチェーンによって査読活動を記録し、貢献度を可視化する仕組みが提案されている。
2021年より勃興したDeSciは、22年には著名ベンチャーキャピタルのAndreessen Horowitzもその重要性に言及した。背景にあるのは、全世界的な研究資金の窮乏だ。
世界のサイエンスを主導するアメリカでも、研究者が得られる資金の獲得率が下がっており、資金調達が難しく研究が続けられないという問題がある。また、創薬開発費の増大、学術雑誌への掲載料の高騰により、研究にかかるコストも上昇。増えた負担は薬価やサイエンス雑誌の購読料に転化され、多くの人たちが高額な薬や学術情報にアクセスできない状況を生んでいる。この課題解決に向けた大きな流れとして、アメリカでは寄付が活発になっており、民間財団による研究支援額がこの2010年代で約3倍になった。その流れの、よりボトムアップで草の根的運動として勃興したのがDeSciだ。
ここまで見たように、DeSciの企業やDAOは、研究の資金調達を簡便にしたり、新たなマーケットを構築したりすることで、研究開発を円滑にする狙いがある。日本にも、DeSci的な理念をもって活動をしている企業や組織がすでに存在しており、DeSciの波は確実に広がっている。自然科学のみならず人文・社会科学領域でも研究の新たな基盤になり、今後DeSciがサイエンスの変革の鍵となることを筆者は期待している。
濱田太陽◎神経科学者(博士)。アラヤ・シニアリサーチャー。沖縄科学技術大学院大学(OIST)科学技術研究科博士課程修了。研究テーマは好奇心の神経計算メカニズムの解明や大規模神経活動の原理解明。