日本の平均給与所得は、1992年以降一度も記録を更新していない。リーマンショック以降の回復も微々たるもので、2018年時点でピーク時より40万円も低い。さらに2019年、当時の経団連会長が「企業が今後、終身雇用を続けるのは難しい」と発言したことによって、若い世代に限らず「会社に人生を預けるのは危険」という認識が強まった。そこで日本でも意識され始めたのが「クリエイターエコノミー」だ。
英語圏のメディアでは、ブロガーが登場したころからすでに少しずつ話題には上っていて、現在の市場規模は世界全体で1000億ドル(日本円で約13兆円)、このうち約1割が日本のクリエイターによるものと算出されている。終身雇用への期待が薄れる社会情勢から会社勤めと並行して活動する副業クリエイターも増えているので、今後ますます市場は拡大していくだろう。
クリエイターエコノミーにおける最大の変化は働く【目的】だ。これまでは所属する会社のために働き、収入を得るという1つの稼ぎ方しかなかったが、いまは自己実現が働く動機になっている。例えば、プラモデル製作が得意な人が完成品をSNSで披露し、売れたとする。もともと趣味でつくっていたものなので、“働いた”という意識は希薄なのに収入を得られる。自己表現の承認を目指した先で収入を得られるのが、クリエイターエコノミー時代の特徴といえる。
とはいえ、お金になる創作活動をするなんて自分には不可能では?と躊躇(ちゅうちょ)する人も多い。これは、日本の学校教育が、個人の強みを伸ばすよりも苦手を克服させることで生産性の高い労働者を育ててきたことに起因している。労働者の工場勤務による製造業で復興し、高度経済成長を支えたという意味ではよい教育方法だったが、もはや過去の話。もっと個人が、自分の経験やスキルを外に発信していくべき時代になったのだ。