両者とも、自社がかつてのパーパスと「魂」を取り戻すべく過去を見直したことを明かしているが、魂の再発見は難題だ。過去を振り返ると、郷愁の念に溺れがちだからだ。カギは、過去を振り返りつつ未来に目を向けることだ。パーパスが色あせたら、刷新すべきだ。米医薬品・医療機器大手ジョンソン・エンド・ジョンソンは10~20年単位でパーパスを刷新している。新たなパーパスは組織に活力を生み出す。
──ディープ・パーパス・リーダーは、「スローガンやシュプレヒコール以上のこと」をやり、パーパスを伝えるそうですね。「自分」「我々」「今」という3要素が絡み合った「壮大で基盤となるような物語」を紡ぎ、自社に「深みと意義、詩情」を吹き込み、人々を行動へと動機づけると。
例えば、米食品・飲料メーカー、ペプシコのインドラ・ヌーイ前CEOはパーパスを、「自分」にとって意義のある個人的な物語として語った。インドの上水道のない中流層家庭で育ったことに触れ、「だからこそ、環境の持続性と水の保全の大切さがわかる」といった具合に、パーパスを自分の人生に投影させた。
ディープ・パーパス・リーダーには、事業運営では「作業員」として「精査」し、パーパスを語る際には「詩人」として「詩情」を吹き込む力が求められる。人々の心をつかむには「ナラティブ・物語性」がものを言う。「自分」という個人的な要素を入れつつ、リーダーとして、「我々」という集団にとって意義があることを強調し、「今」動く必要がある、と説くことが重要だ。
本のなかで、ディープ・パーパス・リーダーは独自のやり方で「社会活動家として機能する」と説明したが、彼らは「実務的理想主義者」だ。「商業」と「社会」など、「トレードオフ(二律背反)」のバランスを取って両立させる。腕のいい中華料理人のように「甘味と酸味」の微妙な加減を取り、「酸いも甘いもかみ分ける」力が必要だ。
──「ディープ・パーパス」企業は増えているのでしょうか。資本主義や人類の未来にとって、現在の動向は希望へとつながるのでしょうか。
資本主義の未来にとって希望になると信じたい。数は増えていると思う。パーパスは企業に「善の力」をもたらす。
ランジェイ・グラティ◎ハーバード・ビジネス・スクール教授。専門は経営管理(リーダーシップ、戦略、組織行動)。同校のMBAプログラムにて事業再生や企業家精神を教えている。著書に『DEEP PURPOSE 傑出する企業、その心と魂』など多数。