自分を大きくも小さくも扱わない
大谷選手の声出しの言葉は、アメリカのソーシャルメディア上でも「史上最も礼儀正しい鼓舞」と評されている。彼の語り口に常に存在しているのは、大袈裟ではない真摯な言葉。従来注目を浴びてきた声の大きい人や、ドラマティックな発言の人とは種が異なっている。
どちらかというと“静かな人”に近い印象さえある。彼の凄さは、野球の才能も当然のことながら、怯えない、力んでいない、自分を過剰に大きく見せない、喋りすぎない、うるさくないこと。そして、大きな体と親しみを感じる顔つき、そのままの自分で、ごく自然に人の輪の中に入れるというところなのだろう。
彼が話している時の表情や姿、その口から発せられる言葉のてらいのなさや屈託のなさから、自分を大きくも小さくも扱わず、ただそのままの大きさで、自分や自分たちのこと、そして、相手へのことを語れる人なのだろうということが受け取れるのだ。
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ご本人がそれを意識しているか否かは定かではない。しかし、そのようなことはどうでも良い。無意識にそれができるのであればなおさら素晴らしい。
そして、その意識が今回日本チームの選手たちに伝わり、「憧れをやめましょう」の言葉をカッコイイと感じた人たちがその言葉に憧れて広く伝わっていった。そう、興味を持ったり気づいたりする入口こそ「憧れ」であっていいのだから。
米国の野球を報道するメディアで見かける大谷を賞賛する言葉のひとつが伝説上の動物「ユニコーン」だ。起こり得ないことを起こす人という意味である。
今回のWBCで、彼は確実にその伝説にさらなるストーリーを書き加えた。これからも気負うことなく伸びやかに、前へ上へと進んでいく姿を、世界中の人々に見せ、憧れさせ続けてほしい。