週休3日制は働き方改革の答えではない。リクルートが考える必須の条件とは

蝦名秀俊 | リクルート 人事統括室 室長

2023年、世界はどのように変わっていくのか。コロナ禍は沈静化に向かうも、地政学的不安は増し、経済はリッセッションの文字がちらつく。Forbes JAPAN2月号では、日本、そして世界で活躍するさまざまな業界のNo.1「36人」に「100の質問」を投げかけた。国際情勢、テクノロジー、ビジネス、金融など100の答えが今年の100の変化を示す。


コロナ禍を経て、見直されつつあった働き方改革はスピードダウンしていないか?
「働く」のプロが示す、改革の第一歩とは。

「働く人たちにどういう企業が選ばれるか、という視点が必須になる」

働き方の未来について尋ねると、リクルート人事統括室室長の蝦名秀俊はこう答えた。変化のスピードが速く先行きが不透明なVUCAの時代。この会社で働けばどんなスキルが身につくのか、自分は成長できるのか。未来を見据えたとき、働く側の視点が企業になければ、流動化する人材を企業側は受け止めることができない。この危機感を蝦名は感じている。

「ビジネスモデルが変わることもあるダイナミックな時代に、既存の従業員のリスキリングを進め、多様な人材を受け入れながら事業価値を創造していかなければならないとき、企業が一人ひとりの働き方に柔軟性を持つというこは、必須条件というか前提条件になってくると思う」と蝦名は話す。

そんな未来に向けたリクルートの「挑戦」のひとつが、週休「約」3日制の導入だった。同社がグループ7社を統合した2021年4月に導入した新しい働き方だ。子育て、親の介護、兼業など多様な環境に置かれた人々が柔軟に力を発揮できるように、従来の年間休日130日に休日15日を追加して145日とし、そのなかに「フレキシブル」に取得できる休日が含まれる。ならせばおよそ週休3日となる。上半期・下半期で休日を自由に設定(変更可)し、休みを前提として事業がまわる。単に休みが増えるだけではなく、リモートワークで実証された働き方の多様化に呼応して、よりフレキシブルな働き方に企業が合わせる新しい社会価値創造への挑戦だ。

リクルートは「公園のように出入りが自由な企業」というコンセプトを持ち、さらに、15年からすでにリモートワークにも取り組み、柔軟な働き方の素地ができていた。働き方の柔軟性をさらに高める環境をつくることで企業としての求心力にできないかという議論の結果だった。

働き方改革が叫ばれて久しいが、目的によってその手段も進捗度合いも変わってくると蝦名は指摘する。一般に企業が働き方の柔軟性を担保するようになるには10年くらいの長いスパンが必要だと言う。リクルートの場合、週休「約」3日制が、大企業が標ぼうする「生産性の向上」や「労働時間の短縮」の答えにしているわけではない。この制度は、休日が増えるため一日あたりの労働時間は平均15分ほど増えることを意味する。結果として昨年は労働時間の削減につながったが、あくまでも変化の激しい時代に社員の「協働」を支えるための第一歩であり、大きな一歩なのだ。「これは、どこの会社にも言えること。10年後を見据えた働き方が分からないなかで、自分たちで新しい働き方を体現するチャレンジが重要なのです」。

えびな・ひでとし◎リクルート スタッフ統括本部 人事 人事統括室 室長。2007年リクルート入社。21年より人事関連機能を横断する組織となり現職。フレキシブル休日やケア休暇の導入など、働き方にさまざまな施策を試みている。

文=中田浩子

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