動物から植物へ───、持続可能な食という人類のテーマに、大阪のものづくり企業が高い技術で応える。
Q. 持続可能な食の未来を脅かすものは何か?
代替食品は今、どこまで技術が進み、どんな食材があるのか?
代替食品、新しい食品素材は私たちの口を賄えるのか?
「国産食料の自給率の改善、サプライチェーンの分断への備え、植物性タンパク質をおいしく食べる味の改良、この3つへ業界全体が動いていくだろう」
大豆を始めとした植物由来の食品加工を推進する不二製油グループ代表取締役社長の酒井幹夫は、地政学リスクがますます進むと予測し、こう切り出した。
環境問題や人口増によるたんぱく源不足など、様々な要因から動物性食品に代わり注目されている植物性由来食品。肉・海産物代替品市場は2025年までに93億ドル(約1兆2574億円)規模に成長予測されている。この植物性原材料に約70年前から注目し開発に取り組むのが、不二製油グループだ。
植物性油脂と業務用チョコレート加工販売で世界上位シェアを誇る。パーム油、大豆、カカオなど、世界情勢に左右される原材料を扱う分、リスクマネジメントは万全だ。が、コロナやウクライナ情勢の影響は尾を引いた。「パーム油の輸入価格は4倍まで暴騰した。急激な暴騰で、当社も値上げをせざるを得ない。食品の行き過ぎた高騰は、我々が考えるサステナブルではない」。
酒井の目には、地政学リスクが益々高まる状況に見える。サプライチェーンの分断、気候変動の高まり、新興国の産業構造の変化などさまざまなリスクへの対処が必要だ。特に「新興国は1次から2次、3次加工へと成長する可能性が高い。そうなれば、コスト競争で太刀打ちできなくなる」。
打開策は、産学連携による技術開発だという。今年10月に、酵母から油脂を世界トップレベルの生産量で製造する技術開発に成功したことを発表。他にも、清掃工場から回収した排ガスに含まれるCO2を活用して、大豆を生育する実験も進んでいる。
革新的な技術によって、生産に必要な広大な土地や大量の水が不要になり、CO2削減にもつながる。また、エネルギーや食料自給が可能になる。こうしたサステナブルな食品開発が必須となる。
「食品以外のところとの技術のコラボレーションが極めて重要になる。技術のクロスオーバーが進んでいかないと、日本は生き残れない」
食料を輸入し、消費するというフードシステムに依存する日本にとって、サステナブルな自律型食品開発は、不可欠だ。すでに味の改良と安定供給を当面の目標に掲げ、業界全体が動いている。
「地域の人々が食べ物に困ることのないように、植物性素材で作ったおいしい食材をきちんと安定供給する。それが、食品素材メーカーの責任なのです」
さかい・みきお◎慶應大学を卒業後、1983年入社。大豆加工部門などを経て、中国、米国の主要な拠点でトップを歴任。2021年より代表取締役社長。同社の特徴でもあるサステナビリティへの取り組みを牽引する。