LGBT差別発言で、放送直前「報道特集」キャスターが2丁目ママに聞いた

TBSアナウンサー上村彩子。現在「報道特集」(毎週土曜日17:30 - 18:50放映)キャスターを務める

2月4日、岸田総理の秘書官が「見るのも嫌だ。隣に住んでいると思っても嫌だ」「同性婚を認めたら、日本を捨てる人も出てくると思う」といったLGBT=性的マイノリティに対する差別発言で更迭されました。

このニュースが飛び込んできたのは、毎週土曜日に私が出演する「報道特集」のオンエア当日の朝。夕方の放送時間に(VTRを)間に合わせるべく、このような時は急いで現場へ行き、飛び込みで取材交渉を行います。LGBTの当事者の方たちの声を聞くため、午前中も営業しているお店に狙いを定め、カメラクルーとともに新宿二丁目へ向かいました。

元秘書官発言の報を受け、新宿2丁目へ─

元秘書官発言の報を受け、新宿2丁目へ─

2丁目ママは…「別に何とも思ってない、モラルない人だとは思うけど」


メインストリートの仲通りに到着しても歩いている人は全くいません。土曜の午前中ということもあり営業時間も終わっているところが多く、町全体がひっそりしていましたが、耳を澄ませるとカラオケの歌声が扉の隙間から聞こえてくるお店がありました。

「RUSH」と書かれたバーのドアを開けると、「いらっしゃーい!」と温かく迎え入れてくれたのは、ママでもあり経営者でもある大野利英さんと2人のお客さんたち。カウンターの椅子の奥には、酔いつぶれた人が眠っていました。

新宿2丁目のバーに飛び込みで取材交渉

新宿2丁目のバーに飛び込みで取材交渉

「総理秘書官の差別発言をどう思いますか?」とママに尋ねてみると、返ってきたのは少し予想外の答えでした。

「子どもを作るわけでもなく、子孫繁栄があるわけでもなく、全然、生産性は無いですよって自覚があったし、そう思っていたので。別に何とも思ってない。モラルのない人だなとは思いますけど」

隣に住んでいても嫌だ、との発言については「『じゃあ引っ越せば?』って感じ。〝隣に住みたくて住んでるわけじゃないけど、こっちは〟っていう。私にも住む権利はあるしね」と、お客さんたちを笑わせながら気持ちいいくらいにきっぱりと言い切るママ。

「僕たちは地面の上で段差に躓きながら生きていく」


しかし、話を聞いていくなかで「僕たちは現実を受け止めて地面の上で段差に躓きながら生きていく」「嫌悪している人が身内にいたらやっぱり辛いなとは思う。でも僕が傷つくだけの話で何もない。それ以上でもそれ以下でもない」と、淡々と答える場面もありました。

結局顔を出してインタビューに応じてくれたのは2時間の取材で3人のみ。逆に、カメラの前に立たない理由を、家族や職場にカミングアウトしていないからという人は何人もいました。

差別発言についてどのようなことを思うのか話だけでも聞いてみると「何も期待はしていないから感情がわかない」「何かを批判的に思ってもいいんじゃない」と、諦めたような表情で答える人が多く、過去にたくさん傷ついた経験があるのだろう、と想像に難くありませんでした。

「カレーが好きとか、オムライスが好きとか、もはやそういう嗜好の話」


そもそも荒井元総理秘書官の発言は、同性婚を認めれば「家族観や、価値観や、社会が変わってしまう」という、岸田総理の一言を受けたものでした。

後に、「法律、制度が新しく変わるという意味で決してネガティブな意味ではない」と釈明しましたが、「変わる」ではなく「変わってしまう」という表現は、残念な気持ちや後悔を表す言葉として捉えられかねません。

新宿二丁目の後に新宿駅付近で取材をすると、街中の人たちは元秘書官の差別発言を非常に冷ややかに見ていて、特に20代の若者は私の想像以上にLGBTを特別視していないとわかりました。

一番印象に残っているのは、28歳の男性の「(LGBTについて)何とも思わないです。カレーが好きとか、オムライスが好きとか、そういう趣味・嗜好の話なんで」という言葉です。合う合わないはあったとしても、好きな食べ物を答えるのと同じ感覚で話せる世代もいる、社会はもう「変わってきている」と取材をして感じました。



2021年に超党派の議員連盟が成立で合意も、自民党内の反対で国会提出は見送られていた「LGBT理解増進法案」が岸田総理の指示のもと動き出しましたが、当事者や世間の声に耳を傾けながら進めてほしいと願うばかりです。


上村彩子(かみむら・さえこ)◎TBSアナウンサー。2015年入社。昨年より「報道特集」キャスターを務めるほか、「Nスタ」、「JNNニュース」、「ひるおび」(ニュース)、「ゴゴスマ~GOGO!Smile!~」(ニュース)などにレギュラー出演。入社後はスポーツ中継「オリンピック中継」「世界陸上」「サッカーワールドカップ」「アジア大会」など、スポーツキャスターとして5年間活躍。自らも高校時代は陸上部選手として活動、高校2年では100mハードルで千葉県内で2位、関東大会に出場した。

文=上村彩子

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