盛田さんは笑いながら話していた。「井深イズム」がビデオ戦争においてソニー敗北の一因となったことも然りである。
日本ビクターでVHS方式が完成する前、盛田さんは松下電器もベータ方式を採用するように幸之助さんを口説いていた。しかし幸之助さんは完成したVHSを見て、「ベータ マックスは一〇〇点の方式だが、VHSは一五〇点だ」と言って後者を採用した。松下電器とソニーはクロスライセンス契約を結んでいたから、その後にソニーがベータマックスで二倍以上の時間を録画できる技術を開発すると、松下電器はVHSにその技術を応用して発表した。そうなっては、ソニーに勝ち目はない。
だからといって、盛田さんは幸之助さんのことを恨んではいなかった。約束したつもりでも、相手はすぐ翻意するし、どう立ち回れば自分の利益を最大化できるか、目ざとく計算するもの。「信用してだまされるほうが悪い」のだ。盛田さんに言わせれば、「このわしをあそこまでだましたのだから、幸之助さんはすごいビジネスマンだ!」ということなのだろう。
世界はアンフェアであり、誰も信用できない、というマイナス思考が、実は盛田さんの強みだったと私は分析している。ビジネスを甘く見ないから、常に最善を尽くして、高い成果が出せたのだ。