「医師が認めた化粧品」として大ヒット
ちなみに、実は山口社長の元々の専門領域は異なる。聖マリアンナ医科大学で長年取り組んできたのは「ドラッグ・デリバリー・システム」(DDS)。DDSとは文字通り、薬品が皮膚細胞に届くようにするための技術だ。本来、皮膚は異物から人間の体を守るための防御壁としての役割を果たしている。人体にとっては、薬物もまた異物。そのまま皮膚に塗ったとしても、体の中に浸透するわけではないのだ。だがDDSによって、薬物を皮膚の細胞より小さな「カプセル」にすることができ、薬物が皮膚に浸透しやすくなる。
このDDSの技術を活かして、ナノエッグが開発・販売しているのが化粧品だ。アトピー性皮膚炎の治療薬なども開発しているが、いずれも開発途上。現在のナノエッグの主力商品は、あくまで化粧品なのだ。だが創業当初、PRでかなり苦労したという。
「私たちの化粧品は科学的に肌に良いものをつくっているという点で、絶対の自信を持っています。ですが化粧品なので、薬機法によって、効果や効能をうたうことはできません。私が聖マリアンナ医科大学の出身であることや客員教授であることすら、広告で言うことができないのです」
PRで最大の武器になるはずの「研究者」としての経歴が封じられた山口社長。そこで「研究者」であることを直接アピールするのではなく、「研究者同士の信頼」を活かす道を選んだ。
300以上の皮膚科や美容皮膚科クリニックと提携、「医療機関でしか購入できない化粧品」として販売したのだ。「医師が認めた化粧品」として、累計販売本数10万本を超える大ヒット製品となった。
「事業が軌道に乗るまでは赤字続きでした。債務超過も経験し、個人保証して借入もしていますので、毎日ドキドキしていました。ですが、そうした苦労を乗り越え、ようやく『人の役に立つ医薬品を開発する』という、夢の入口に立つことができました。極めて近い将来、アトピー性皮膚は『普通に治る』病気に変わるのです」