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2023.02.22 16:30

アトピー性皮膚炎は治る病気に 根本治療を目指す研究者に聞く

そこで、山口社長の研究者魂に火がついた。大学に戻ると「紫の塗り薬」の成分を分析。その結果、主な成分はピオクタニンという化学物質だとわかった。 一般的にはクリスタルバイオレットという色素として知られているものだ。

ピオクタニンはアトピー性皮膚炎の皮膚に、どのように作用しているのか。研究の結果、山口社長の目には、これまでの常識とは正反対の事実が見えてきたという。

アトピー性皮膚炎の根本的な原因は?

一般的にアトピー性皮膚炎は、ダニ・ほこり・食べ物といったアレルギーの原因となる物質が、皮膚に侵入することで発症する「アレルギー疾患」と認識されてきた。「アトピー性皮膚炎はアレルギー」という考え方だ。だが、これがまったく異なっていたのだという。

「研究の結果、アレルギー症状はアトピー性皮膚炎の原因からではなく、あくまで結果だとわかってきました。まず皮膚疾患が原因で、皮膚の一番外側を覆う角質細胞の隙間を埋める脂質が分泌されにくくなります。そうなると、皮膚は無防備なバリアのない状態です。いわば“剥き出しの状態”の皮膚に、アレルギーの原因となる物質が入ってしまう。そしてアレルギーを発症し、肌がさらにボロボロになってしまうのです」

つまりアレルギーが最初にあるのではなく、根本的な原因は皮膚を守る脂質が分泌されないことなのだ。

皮膚の脂質生成を抑えてしまう物質が、アセチルコリンだ。前述の「紫の塗り薬」の主な成分であるピオクタニンには、このアセチルコリンの細胞への作用を防ぐ働きがあるのだという。その働きによって脂質の分泌が回復、アトピー性皮膚炎が改善するというのだ。



すでに山口社長のグループは、ピオクタニンの作用が様々あることを見出したが、ピオクタニンには発がん性があるとの情報があったため、ピオクタニン以上の効果があり安全性の高い新薬を開発し、特許を出願。新薬の新たな作用に関しては海外の著名な学術誌に掲載されている。

「治療薬の開発は今、大詰めを迎えています。ですが開発が成功しても、私たちのような研究型のベンチャー企業には医薬品のための製造工場をつくれるほどの資金力はありません。ですから、早い段階で創薬のプロである大手製薬会社にライセンスすることを考えています」

アトピー性皮膚炎で苦しんだ山口社長の娘も今、研修医として医師への道を歩んでいるという。
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文=下矢一良

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