アート

2023.02.18

戦いの地から平和を願う場所へ ワーテルローと組んだ「関ケ原古戦場」プロジェクト

「せきがはら人間村」内にある杉本準一郎の彫刻が点在している「スギモトオープンエアミュージアム」。緑まぶしい芝生の広場に、水と地球、太陽、月をイメージした作品群が

そして私は、「この地での戦い以降、260余年に及ぶ天下泰平の世が続いたわけだから、ワーテルローの交渉では、世界共通の願いとして平和を望む世界三大古戦場の連携を目指そう」と決心した。その決意を胸にベルギーに向かい、前述のダイレクターへストレートな問いかけをしたのだった。

私が質問をした次の瞬間、それまでにこやかだったダイレクターは真顔になり、「僕は平和を伝えるためにこの仕事をしているのです」と答えてくれた。「関ヶ原も同じなんです」と私が少し興奮して言うと、彼は一変して柔らかな表情に戻り、私たちに向かって「ベルギーはビールが有名なんですよ。まずは一杯やりませんか?」と微笑んでくれたのだ。

そして翌年3月には、古戦場の歴史的な意義と平和の尊さを発信し、交流を続けるという「世界古戦場サミット共同宣言」の表明にも至った。こうして私のなかでの関ヶ原は、戦いの場から、「平和を考える」場として意義と意味を持つようになっていったのだ。

「せきがはら人間村生活美術館」の存在

「せきがはら人間村」の入口に設置された李禹煥(Lee Ufan)の作品「関係項−アーチ・関ケ原」、 関ヶ原の原点と未来を表わす

「せきがはら人間村」の入口に設置された李禹煥(Lee Ufan)の作品「関係項−アーチ・関ケ原」、 関ヶ原の原点と未来を表わす


その後、コロナ禍を挟み、ロシアのウクライナ侵攻など、終わりの見えない不安定な日々が続いていたなか、2023年(令和5年)2月5日、ひさしぶりにくっきり晴れた青空のもと、私は関ヶ原で1つのアート作品の除幕式に参加した。

前述の「平和の杜」をつくった関ケ原製作所の二代目社長・矢橋昭三郎氏が、会社の敷地内に約40年かけて社員や作家とともにつくりあげてきた「せきがはら人間村」に設置された、世界的彫刻家の李禹煥(Lee Ufan)氏の作品「関係項−アーチ・関ケ原」の除幕式典だった。

関ケ原製作所は、創業70年、精密石材製品から船舶用クレーンやトンネル掘削機などの大型製品まで、多種多様なオーダーメイド製品を展開する県内でも有数のものづくり企業だ。特筆すべきは、広大な敷地内の至る所に膨大な数の絵画や彫刻などのアート作品、カフェや食堂、美術館、研修棟、ゲストハウス、子どもたちが自由に遊べる公園などが設置されていることだ。

それらの大部分は、矢橋昭三郎氏がライフワークとしている「限りなく人間ひろばを求めて」という理念の一環として、独自の美意識によって構築されたものだ。その集大成として選んだのが「関係項−アーチ・関ケ原」だった。

日本の東西の分岐点であり、戦いから平和への転換点となった関ヶ原という場所だからこそ、未来へと続く入口として、ここに存在しているのだと、私は紺碧の空を背景に輝くアーチを観ながらつくづく感じた。

関ヶ原は、やはり特別な場所なのだ。それは実際にこの場所に立つとよくわかる。関ケ原古戦場や記念館を背景に、「せきがはら人間村生活美術館」の存在が、過去の記憶とともに未来に向かって伝えようとしているメッセージを、さらに際立たせてくれているからだ。

この場所は、今後、国内外のアート愛好家だけではなく、歴史や戦国時代ファンにも愛されていく、岐阜県の誇るべきユニークかつ素晴らしいサステナブルな観光地になっていくことだろう。

そして日本が、世界が誤った道に進まないよう、私たちはこの先もこの地の歴史から学び、自然のなかにある真善美について、アートを通じて感じていくのだ。あたり前の暮らしができる平和の尊さを発信して、明るい「光」で地域を、日本を、そして世界を輝かせていくために。

岐阜関ケ原古戦場記念館 https://sekigahara.pref.gifu.lg.jp/
関ケ原製作所 https://www.sekigahara.co.jp/
せきがはら人間村美術館 https://www.sekigahara.co.jp/ningenmura/index.html

文=古田 菜穂子 写真提供=せきがはら人間村生活美術館

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