本来、サイトは150万人のファンにのみ開放されるはずだったが、あるレポートによると、実際には1400万件ものアクセスがサイトに殺到したという。このことから、チケットマスターのサイトへのトラフィックの90%は人工的なものだったことがわかる。
Eコマースソフトウェアのプロバイダー、「Queue-it」のCEOであるニルス・ソデマン(Niels Sodemann)によると、これは珍しいことではなく、チケット販売以外でも発生しているという。
「同じ状況が粉ミルクや労働許可証、ワクチン接種の予約など、様々な事例で見られる。これらのボットは、ある商品を400ドルで購入して1000ドルで転売し、600ドルの利益を得ている」とソデマンは先日配信されたポッドキャスト番組のTechFirstで述べた。
こうしたボットの悪用によって、消費者はどれほどのコストを強いられているのだろうか? ソデマンの会社が調査をしたところ、毎年1世帯あたり1200ドルものコストが掛かっているという。全米の世帯数は1億3000万近くあるため、総額では膨大な金額になる。つまり、ボットは巨大ビジネスなのだ。
「最近は転売屋の組織化が進んでおり、最大手は従業員が200人ほどいる。その多くは、人件費が安いアジアなどオフショアを拠点にし、米国での活動を支援している」とソデマンは言う。
チケット業界では、チートボットを使った転売が大きな問題となっているが、この数十年でコレクターズアイテムとして高い人気を誇るスニーカーやランニングシューズでも同様の問題が生じている。
「北米では、チケットを1次流通で購入して転売する組織が少なくとも40ほど存在する。スニーカーの場合は、少なくとも100の組織があると思われる。彼らは、直接的、または間接的にスニーカーを入手して転売している」とソデマンは言う。
つまり、これは少数の個人が転売目的で商品を早く手に入れようとしているものではなく、1つの産業として成り立っているのだ。問題は、大量購入によって商品が品薄になって価格が高騰することだ。
生活必需品も高騰
これによって、赤ちゃんのための粉ミルクなど、生活必需品を必要とする人は大きな影響を受けている。ソデマンは、サプライチェーン問題や粉ミルクの品不足、9月にフロリダで発生したハリケーン「イアン」、ウクライナでの戦争といった危機的状況において、こうした問題を目の当たりにしたという。
「パンデミックの間、転売によるサヤ取りの機会や、それによる利益が大幅に増加した。また、ボットを悪用する組織の洗練度も上がっている」とソデマンは言う。
転売屋が商品を購入する際、1注文ごとに個別のクレジットカードと送付先住所が必要になるため、ボットを大規模に利用することは一見難しく思える。しかし、ソデマンによると、洗練されたボットを所有する組織は、クレジットカード1000枚分の支払いを同一口座から行うことができるのだという。
「Eコマースは、これまでと大きく変わっている。ボットは必ずしも違法ではないが、善悪の判断や、ボットを取り巻く状況が把握し辛いため、インチキをして金儲けをすることができてしまっているのが実情だ」とソデマンは述べた。
(forbes.com 原文)