SDGsやESGへの取り組み状況を分析する際には、「規定演技」と「自由演技」を分けて考える必要がある。
規定演技とは、企業の社会的責任の側面を指す。企業には地球市民として背負うべき責務がある。今回のデータ分析に用いた指標で言うと、売上高あたりのGHG排出量、廃棄物量、水使用量や女性従業員比率などが規定演技に該当する。これらの項目については一定レベル以上を目指すべきだ。企業によって取り組み状況にグラデーション(濃淡)があるのが現状だが、日本では今後、あらゆる上場企業に対して規定演技のクリアが義務化されるだろう。
他方、自由演技とは、各企業が個性を生かしながらサステナビリティを成長機会につなげていくことを指す。脱炭素の流れを市場開拓のチャンスととらえ、新たなソリューションを生み出し収益につなげる例がわかりやすい。今回のデータ分析の指標で言うと、再エネ使用率や地域社会活動費などが自由演技の部分に該当する。
人間には個性がある。足が速い人もいれば絵を描くのが上手な人もいる。個性豊かな人たちが集まることで、互いに補い合いながら社会を形成している。株式会社も同じだ。イノベーションの手法や解決策には多様性があったほうがいいし、企業のグラデーションこそがサステナブルな未来の可能性を開くことにつながる。
「人的資本」を維持できるか
今回、私がCEOを務めるサステナブル・ラボはPart1の「ステークホルダー資本主義ランキング」とPart2の「人的資本ランキング」「ダイバーシティ度ランキング」「気候変動対策ランキング」のデータ解析を担当した。これらのなかで最も見応えがあるのは「ステークホルダー資本主義」だろう。上位の分析結果を見ると、株主や従業員ファーストの企業が多く見られる一方、顧客・消費者に対するスタンスには個性が見られる。業種が入り乱れていることも一因だが、一昔前によく聞かれた、「お客様は神様であり、従業員やサプライヤーは二の次」といった傾向はあまり見られなかった。
「人的資本ランキング」の結果も興味深い。上位には時価総額が大きな企業が並んだ。この結果からは、時価総額が高い企業ほど人的資本に投資しやすく、優秀な人材を集めやすいという傾向が見て取れる。弊社ではよく「強さ(経済利益)」と「優しさ(社会・環境への貢献)」という言葉を用いるが、強いほうが優しくできるという現実がランキングでも示されている。
とはいえ、上位企業も油断は禁物だ。今回の結果はあくまでも現時点における断面値であり、5年後、10年後も人的資本を維持できるとは限らない。実際、日本企業は他の先進国に比べて勤務先の企業に対する忠誠心が低いとの統計データもある。