人的資本は企業文化と密接にかかわる。ロイヤルティの高い企業であり続けられるかどうかは、組織を率いる経営者にとって重要な経営課題の一つだ。株主も人材も企業を「強さ」と「優しさ」の両面で見る社会になったことを考えると、責任あるポジションを任せてもらえる、事業を通じて大きな社会的インパクトを起こすことができるなど、企業には求職者を魅了するための独自の方策が求められる。
数字は「主役」ではない
弊社はサステナビリティ、金融工学、データサイエンスの3領域における専門家を集め、非財務データバンク「TERRAST β」「TERRAST for Enterprise β」を展開している。企業の非財務データを収集し、AIの分析結果を基に専門家と協議し、気候変動やダイバーシティなどのテーマに落とし込んでサステナビリティ度を可視化する。これによって、新しい資本主義の考え方であるSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)に取り組んでいる。
非財務データは、よりよい経営判断や投資判断の指針になる。だが、データや数字はあくまでもビジョンを実現するための羅針盤であり、主役ではない。渋沢栄一は「論語と算盤」という言葉で経営哲学を説いたが、論語は人の生きる道であり、算盤は人の意志をサポートするためにある。会社を通じて、どのような社会をつくりたいのか。パーパスや物語があって初めて、数字は便利なモノサシとして機能するのだ。
平瀬錬司◎「ESGデータのGoogle」を目指すサステナブル・ラボのCEO。大阪大学理学部在学中からサステナビリティ領域のベンチャービジネスに携わる環境起業家。京都大学ESG研究会講師。