ビジネス

2022.11.12

「翻訳者の未来」「AI時代に高需要の職業」。機械翻訳DeepL CEOはこう答えた

DeepL CEO ヤロスワフ・クテロフスキー氏(撮影=曽川拓哉)


──私はコミュニケーション・ストラテジストとして、コミュニケーションのあり方がAIによってどのように変わっていくかに興味があります。たとえば将来、言語のみならず、「感情」も翻訳できるようになるのでしょうか?

「感情」の大部分はテキストに埋め込まれることが多いので、すでにうまく翻訳されていると思います。「AIが感情も理解する」とは言うべきでありませんが、AIは「感情をどうにかして翻訳する」ことを学習はしているのです。

たとえば「カジュアルな表現」が可能な言語で書かれた、くだけた、リラックスした訳し元文があれば、翻訳結果もカジュアルになるでしょう。

そこへ行くと「英語」は感情表現にはややシンプルな構造をしているため、例えば他言語から英語に翻訳する場合、多くのことが失われる可能性があります。その点、日本語は、他言語に翻訳されたり、他言語から訳し下されたりしても、より多くのことを伝え得る言語であると言われています。

──グーグルその他競合は追いついてくると考えますか?

とりわけ5年前から、市場全体の機械翻訳の品質レベルは常に向上しています。競合他社はさらに上を目指し、私たちもまたさらに上を目指すという按配で絶え間ない競争が続いているし、それはこれからも続くでしょう。

「方言」はいわば技術翻訳だ


──「方言」も訳せますか?

例えば「分子生物学」など非常に専門性の高いマテリアルの翻訳でも、複数トピックにまたがるトレーニング教材さえ与えれば扱うことは可能です。方言も同様だと考えています。方言もいわば、専門的な技術翻訳のカテゴリーと考えてよいと思います。



──技術者は何人いますか?

数学と、工学関連の研究の必要性がもっとも高いですね。社内には研究者が約50名、エンジニアが約120名います。また、言語学者や翻訳者のような人たちは課題の理解を助けてくれますし、その言語の何が優れていて何が弱いのかを教えてくれるため、翻訳品質を理解する上でとても重要です。

──AIは果たして言葉の「意味」を理解しているのでしょうか? それとも、基本的に蓄積されたデータを記憶し、応用しているだけなのでしょうか?

素晴らしい翻訳をするためには、AIは物事を記憶するだけでなく、与えられた文章を抽象的に理解する必要があります。しかし、それが「私たちが見ているものを理解している」ことかどうかは非常に学術的で哲学的な、難しい問題です。

ですが、AIが私たち人間のように感覚を持ち、自分が何を行っているのかを真に理解しているとは思えません。彼らは自分の仕事を忠実に実行しているのだと思います。
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インタビュー=岡本純子 翻訳・文=石井節子 写真=曽川拓哉

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