1931年、パデュー大学に地質学標本として所蔵されていた珍しい岩石が、希少な原始的な火星隕石であることが確認された。数百万年前に火星の表面から飛び出した隕石は、その後、地球の大気に突入した。
隕石は、これが発見されたとされるインディアナ州ティピカヌー郡ラファイエット市にちなんで「ラファイエット」と命名された。しかし、その石がいつ大学に届けられたのか、どうやって所蔵品となったのかは、90年以上不確かなままだった。
由来を示す逸話の1つは、米国の隕石収集家ハービー・ニニンガーが1935年に報告したパデュー大学のある黒人学生が、釣りをしていた池に落ちたところを目撃したというものだ。彼は泥の中から落ちた隕石を回収して大学に寄贈した。
この逸話を確認しようとしたこれまでの試みからは結論が出ていない。しかしこのほど英国、米国、オーストラリアおよびイタリアの研究者からなる科学探偵チームが、最先端分析技法と資料調査を活用してこの話が真実であることを示唆する十分な証拠を集めた。起こったのは1919年あるいは1927年で、わずか4人の黒人男性のうちの1人がラファイエットを発見した学生だという。
謎の解明は2019年、グラスゴー大学の地理・地球科学部の惑星科学者アイン・オブライエン博士が、ラファイエットの微小な標本を粉砕し、高度な質量分析装置を使って組成を分析したときに始まった。
彼女はラファイエットに保存された有機分子の存在に関する新たな事実を発見しようとしていた。火星の生命の可能性について理解を深める可能性のある証拠だ。
分析によって明らかにされた数千種類の有機分子の中で、オブライエンは特に地球的なものに気づいた。デオキシニバレノール、通称DONだ。DONはFusarium graminearum(フザリウム・グラミネアラム)と呼ばれる、とうもろこし、小麦、オーツ麦などの穀物作物を汚染するカビに含まれる「ボミトキシン」のことだ。人および動物が摂取すると病気を引きおこし、特にブタが悪影響を受ける。
隕石中のボミトキシンの存在に興味を持ったオブライエン博士は、ラファイエットのぬかるみ着地の物語をよく知る同僚たちに話した。彼らは、近隣農地の作物から出た粉末が周囲の水路にDONを運び、隕石が池に落ちた時にラファイエットが汚染された可能性を示唆した。
オブライエン博士はティピカヌー郡におけるF. graminearum(赤かび病菌)の歴史的なまん延状況を詳しく知るために、パデュー大学の農学部と植物・植物病理学部の研究者に尋ねた。
彼らの記録によると、そのカビ菌は1919年に作物収量の10~15%減少を引き起こし、1927年にも原因不明の収量減少があった。後者は隕石が同定された1931年以前では20年ぶりの大流行だった。赤かび病の高いまん延率を踏まえると、農地の境界を越えて運ばれた可能性が高くなる。