経済・社会

2022.09.30 07:30

ロシア軍、わずか1、2日訓練しただけの召集兵を前線に送り込んでいる

安井克至

なぜなら、ロシアの慣行では、新兵の訓練のほとんどを前線旅団が担当するからだ。これに対して西側の軍隊では、兵士は数週間から数カ月専門の訓練基地で過ごした後、所属する部隊に送られ、そこで追加の訓練を受けた後配置される資格を得る。

ロシアの旅団はそれぞれ数千の中隊からなり、通常3つの大隊に分かれている。大隊の2つは戦闘のために兵士が配置され、武器が配備される。第3の大隊には徴兵支援部隊と教官がいる。この第3大隊が新兵を受け入れ、配置可能基準を満たすまで訓練した後同じ旅団の前線編隊に配属する。

しかし多くの旅団でこの第3大隊による訓練が機能していない。「ロシアはこれらの第3大隊の多くをウクライナに配置している」と英国国防省は指摘している。戦闘で崩壊したものもある。それ以外は前線に残っている。

自らの訓練基地をご都合主義で破壊したロシア軍に、もはや短期間に戦闘準備のできた人材を生み出すことはできない。長期的には、軍が第3大隊を復活し部隊レベルの訓練を再開する可能性はあるが、そのためには戦闘活動を中断し、大量の経験ある人材を前線から移動しなくてはならない。

それはウクライナ軍に勢いがある限り危険な行動だ。ロシア軍は選択を迫られている。ウクライナの領地と引き換えに、自軍の戦闘力を回復する、あるいは、大量の未熟な兵士を送り込んで既存の前線を強化する。

前者は、自らの正当性を維持するために力強さを打ち出す政権にとって即死を招きかねない。後者は当面政権の力を維持できるが、長期的には、兄弟や息子や父に、永遠かもしれない別れを告げる家族が増えるにつれ、正当性を損なうリスクが高まる。

ロシアがこの悲劇的な方向性を逆転させ、その戦争目的を救済するシナリオを想像することは困難だ。「これが今年終わるのか、それとも来年終わるか、それだけの問題だ」とロンドン、キングス・カレッジ戦争学部フェローのマイク・マーチンはツイートした。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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