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2022.08.25 18:00

下水処理場の汚泥から抽出 資源循環型の肥料「こうべ再生リン」に注目


2年前までは、下水からリン酸を取り出すコストが輸入価格の3倍もかかった。これを販売価格に転嫁していたので、肥料メーカーからは見向きもされなかった。ところが、リン酸アンモニウム自体の入手が難しくなり、輸入価格が高騰するいま、肥料メーカーからの引き合いが増えているのだ。

下水処理場で、どうやって汚水を海や川に放流できるまできれいにしているのかといえば、まず汚水に含まれる固形物を沈めて取り除く。そのあと水に溶けている有機物(汚れ)を微生物が食べて分解する。やがて微生物は固形物として沈むのでそれを除去すると、自然の水と変わらないレベルにまで浄化されるというわけだ。

ただ、沈んだ固形物は汚泥のような状態で、臭いもきつく衛生的にも良くない。そこで、消化タンクと呼ばれる大きな容器に入れて、空気と光を遮断し約30〜40日間、約40度で加温する。

すると、メタン菌の働きで汚泥の中の有機物が分解されるので、メタンガスと二酸化炭素を含んだガスが発生し、臭いも取れてこれ以上の化学変化が起きにくい物質になる。通常であれば、これを絞って水分を減らし、焼却することで下水処理の工程は終わる。

ところが、これを水分を減らす前に特殊な容器に入れて、水酸化マグネシウムを加えて化学反応を起こさせる。すると、リン酸とアンモニウム、さらにマグネシウムを含んだ物質が取り出せるのだ。神戸市はこれを「こうべ再生リン」と名付けて、肥料の原料として売却してきた。

アンモニウムは肥料の3大成分のうち「窒素」に当たる。マグネシウムは植物の光合成に必要な葉緑素をつくりリン酸の吸収を手助けするので、肥料の原料としてしばしば使われている。なので、こうべ再生リンにカリウムを加えて、成分をうまく調節すると一般に使われている肥料と同じものができあがるというわけだ。

一般にも園芸用肥料として販売


この事業に着手したのは、いまから10年前のこと。汚泥を運ぶ配管にリン酸が付着して詰まらせてしまうので、それを避けるために汚泥に含まれるリン酸を除去しようとしたのだ。


リン酸などが付着した汚泥配管(右)

そのあと、これが肥料として使えることから、神戸市内の農家でつくられるキャベツやスイートコーンなどの「こうべ旬菜」というブランド野菜や、市立小学校の給食で出される「きぬむすめ」という品種の米の栽培に使われてきた。
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文・写真=多名部重則

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