小仲は、小学生の時に公募された月周回衛星「かぐや」の名付け親の1人になってから宇宙飛行士になると決め、どんなにつらいことも「宇宙飛行士になるための訓練」だと思って乗り越えてきた。
そんな彼女は、現在、JAXAの宇宙飛行士候補選抜を通過中。いままさに夢の手前に立っている小仲は、月に降り立つ最初の日本人となるか。
2007年に打ち上げられた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月周回衛星「かぐや」。一般公募で決まったこの衛星の名付け親のひとりが、当時11歳だった小仲美奈だ。
このとき「月に行ってみたい。月探査機をつくってみたい」と思ったことをきっかけに、宇宙飛行士になるという夢を抱いた。それから15年、現在26歳になった彼女は、JAXAでの勤務を経てパリ天文台で働く唯一の日本人女性研究者として活躍中だ。
いま没頭しているのは、人の目には見えない紫外線を観測できるUV偏光分光器の研究。この偏光分光器を搭載した人工衛星が開発できれば、「恒星がどうやってできるのかがわかるかもしれません。さらには宇宙の成り立ちの解明にまで近づける可能性もあるんです」。
小仲はこれまで、宇宙飛行士になるという夢を軸に生きてきた。実現するためにはどんな条件が必要か、ひとつずつ調べてクリアしてきた自信が、いまの彼女の輝きをつくっている。
「つらいことや嫌なことも、すべて訓練だと思えば乗り越えられる。理不尽な目に遭ったり、対人関係で悩むことがあったとしても、国際宇宙ステーションでの生活を想定したものだと思えば、どんな経験も前向きに変えられるから」
どんなことも、とりあえずやってみる
そんな小仲はここまでの歩みを「ジグザグな山登りのよう」だと笑う。大学時代は「自分でつくったものを宇宙にもっていきたい」という思いから工学を選択し、語学の習得も必須と、アメリカとドイツに留学した。
ドイツでは指導教員を自分で探さなければならず、また奨学金を得るためにコネもないなかで依頼メールを送りまくり、落ちまくったこともある。NOの返事を突きつけられるたびに落ち込み傷ついたが、チャンスに食らいつき、これまで書いた論文をすべて取りまとめ、プレゼン動画まで撮って送る行動力で道を開いた。
いまでも常に意識しているのは、「とりあえずやってみること。そして相手からの要求に対して、期待を少しだけ超えるプラスαを乗せて打ち返すこと」だ。
大学院を卒業してJAXAに入ってからは、システムエンジニアとして大型人工衛星のつくり方を学んできたが、3年ほど前にチリのアルマ天文台を訪れ、そこで見た満点の星に魅了されたことがきっかけで天文学へ転向し、いまの場所にたどり着いた。
そして昨年、JAXAは13年ぶりに月面基地へ降り立つことを想定した宇宙飛行士の募集を開始。現在、小仲はこの選抜を通過中だ。まさにいま、夢の手前に立っている。
「地球も宇宙の一部。宇宙へ行くことはそれほど特別なことではないんだと、私がみんなに示したい」
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こなか・みな◎1995年生まれ。パリ天文台研究員。東北大学工学部機械知能・航空工学科卒。同大大学院修了後、2021年までJAXA勤務。現在、宇宙飛行士候補選抜を通過中。(着用ブラウス 5万9400円 チカ サキダ/エドストローム オフィス 03-6427-5901)