日本発「世界を変える30歳未満」の30人を選出するプロジェクト「30 UNDER 30 JAPAN」。
テクノロジー&サイエンス部門で受賞した野呂侑希(22)は、 「恩送りAI」で産業のDXを推進する起業家だ。創業から1年半、人から受けた恩にテクノロジーで報いながら、世界の頂点を目指す。
データとアルゴリズムで産業のDXを手がける「燈」を創業した野呂侑希は、東大工学部でAIを研究する現役大学生である。燈の提供する建築業界への解決策は具体的だ。
まずリアルな建物や施工現場、設計図などの書類をデータ化してから、AIにより判断や処理をすることで業務を省力化。さらに集めたデータから瞬時にBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の3Dモデルを半自動生成する研究を進めている。クライアントには大成建設や東洋建設などがいる。
日本の建設業界は慢性的な人手不足や技術者の高齢化という構造的な問題を抱える。そうした危機的な実情に「AIという技術で照らしたい」との思いが起業の原点にある。現在のメンバーは41人。彼らのモットーは「足を動かしてクライアントと現場で対話すること」だ。
「誰もが利用するビルや道路、社会インフラは何万人、何十万人の手でつくられている。暮らしのなかで何気なく触れるものに関わる方々の顔が見えるようになりました」
創業1年半で海外へ進出
テクノロジーとは社会の常識をアップデートするものだが、野呂のもとには産業や技術に関する新聞記事のスクラップがある。10代の頃、彼が興味をもちそうな記事を、祖父母が切り抜いては渡していたのだ。AI起業家になるためのエコシステムに恵まれていたと言っていいだろう。
東大進学後もAIの第一人者である松尾豊教授が恩師となり、影響を受けた。
「松尾先生のイメージは建築家。研究室には産学共同研究やスタートアップの応援チームなど、さまざまなエコシステムの一端があります。それらを設計して運営する松尾先生はアーキテクトであり、世の中の仕組みをつくっていく方です」
夢はGAFAMに肩を並べる会社だという。社名の「燈」には「情熱を燃やして、世界の頂点まで登っていく」という野心を込めている。建設需要が高まっている東アジアへ、ゼネコンと歩みを合わせて年内にも進出する予定だ。
野呂が創業する直前、新聞記事を切り抜いてくれていた祖母が他界した。自分がつくった会社の記事を見せてあげられなかったのが悔やまれるが、「自分たちがこれからどんどん活躍すれば祖父には見てもらえるし、祖母にもいつか届くだろうなと思っています」。
世界に存在するあらゆるものは、誰かが誰かのためにつくったものだ。AI起業家として彼は「人の幸せ」に寄与したいと考えている。AIによる恩送りが彼のモチベーションと言っていいだろう。
「30 UNDER 30 JAPAN 2022」特設サイトはこちら>>
のろ・ゆうき◎1999年、神奈川県生まれ。東京大学工学部3年生。AI スタートアップでのインターン、東大・松尾研究所で企業提案と共同研究に従事後、2021年に燈を創業。
ジャケット¥138,600(チンクワンタ/チンクワンタ ☎️050-5218-3259)、シャツ¥22,000(タンジェネット/タンジェネット mitsuruyoshiya@gmail.com)