キャリア・教育

2022.08.19 08:00

日本人コーチがスタンフォード大で見た 「人が辞めても機能する」組織

石井節子

だが日本でも始まった、「人がいない部分」を仕組みでカバーする試み


しかし、ここ数年、コロナも手伝ってか多くの企業が、原則として出社義務をなくしたり、在宅勤務の幅を広げたり、男性も産休・育休が取得できたり、中には失恋休暇なるものが存在する企業もあるそうだ。つまり、多くの企業や組織が、個人の時間を重視する方向に進んでいる。「人がいない部分」を仕組みでカバーするような、企業努力が見られてきている。

たとえばリクルートがそれをやっても驚かないが、歴史ある、びっくりするような大きな会社もがそういった方向にシフトしているのを見ると、逆からのアプローチも、間違いではなかったのかと思うようになった。

島国育ち、終身雇用、年功序列、不合理社会──。様々な理由で変化も進化も難しい環境にありながら、勤勉かつ優秀な国民の「努力」に頼って先進国に肩を並べてきた我が国が、個人を尊重し、仕組みによって、労働時間等の社会問題を解決する新しいチャレンジをしているようにも見える。

チャールズ・ダーウィンは言ったそうだ。「生き残るのは、強いものではなく進化できるものだ」と。

今まで、会社組織の在り方や、個人の尊重という分野は、我が国にとって、手付かずの未開拓地のようなものだった。そこに、逆ベクトルではあるが、働き方改革のように、刺激や変化が加わり、それに社会が呼応し始めている姿は、アメリカに暮らす日本人の私にはまさに「進化の始まり」のように見える。加えて、今まで未開拓だったのだから、伸びしろは無限大だ。

元リクルート勤務だから言う訳ではないが、これからは、人の採用、特に中途採用のマーケット、つまり、リクルーティング・サービスの会社が伸びていくのだろうと思う。そして、「リクルーティング」という言葉が一般的になるような日がくるのではないか。すなわち、中高校生アスリートの「スカウト」や、一般の「就職、転職活動」の言い方もすべて「リクルーティング」に置き換わって行くのではないか、置き換わって行ってほしい。とくに古い会社やスポーツ界では。スポーツビジネスの世界に生きる者としては、そういったアメリカの文化こそが、日本のスポーツ界に波及して行ってほしいのである。

前回の記事で、スタンフォード大アメリカンフットボール部のルールには「シーズンは、8月~11月の4カ月のみ。それ以外はオフシーズン」「シーズン中の活動時間は週に20時間まで」などがあることを紹介した。そう、盆と正月だけ休みで練習に明け暮れるような時代がすでに終わったことは、東京オリンピックでのアメリカの獲得メダルが、ホームアドバンテージのある日本のそれの約2倍だったことを見ても明らかである。

日本の社会、そして、スポーツ界の変化に大きな期待をかけたい。

文=河田剛 編集=石井節子

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