デジタルトランスフォーメーション(DX)は、そうした企業の変革を推し進める手段である。デジタルでビジネスモデルを変革し、新たなる企業価値を生み出し、持続可能性を担保していかなければ、企業に未来は拓かれない。
では実際に、大企業はDXの推進をどのように成功に導いているのだろうか。大阪大学の大学寄附講座でパナソニック×電通デジタルが語った内容をベースに追加取材を敢行し、大企業パナソニックのDXの取り組みや本質的な課題についてまとめた。
国内最大級のデジタルマーケティング会社として知られる電通デジタルが行っている、次代を担う人材育成を視野に入れた大阪大学の大学寄附講座。その一環として、5月13日に大阪大学豊中キャンパスで行われたのが「実践顧客基点のデジタルトランスフォーメーション」である。
大阪大学豊中キャンパスで行われた大学寄付講座「実践顧客基点のデジタルトランスフォーメーション」。
登壇したのは、日本を代表する企業・パナソニックの中核でCCXO(チーフ・カスタマーエクスペリエンス・オフィサー)チーム顧客エンゲージメントリーダーとして顧客基点のDXを推進する徳丸健太郎(以下、徳丸)と、電通デジタル執行役員ビジネストランスフォーメーション部門部門長安田裕美子(以下、安田)だ。
知名度よりもスピード重視へ、顧客の意識が変化
講義の冒頭で、国内企業のDXの現在地点を明かす、電通デジタルによる興味深いデータが開示された。
同社が実施した意識調査によると、顧客がサービスを選択する際の基準がコロナ禍をきっかけに大きく変化しており、モノやサービスのブランドや知名度、あるいは価格よりも、スピーディにかつ柔軟に要望に対応してくれるかが、より重要視される傾向にシフトしているというのだ。
「こうした顧客の意識の変化は我が社のDXをさらに前へ進める原動力になりました」
「最後に成否を決めるのは、やはりヒトの力」徳丸健太郎 パナソニック CCXO(チーフ・カスタマーエクスペリエンス・オフィサー)チーム 顧客エンゲージメントリーダー
「私たちは、近年、美容家電のサブスクリプションサービスやIoT家電など、お客様と新たな関係性を築くべく製品だけでなくサービスを進化させてきました。また、こういったビジネス変革を支え、経営を進化させるIT基盤の底上げもグループ全体で推進しています」と徳丸は言う。
「CCXOチームのミッションは、パナソニックの活動を顧客視点に大きく改革していくこと。顧客接点改革を担当する顧客エンゲージメントチームは、360°UX視点で顧客体験の質を高めることを狙いに、ミライを見据えた体験設計やオウンドメディアを中心とした顧客接点の再構築、顧客ニーズや市場変化に素早く対応可能なシステムアーキテクチュアの再設計などに取り組んでいます」。顧客の体験や暮らしに真に寄り添っていくためには、従来の製品やサービスの進化だけでなく、マーケティングのあり方から変わる必要がある。そういった課題意識から新たに立ち上がったチームであるのだ。
サービスの届け方までが一連の顧客体験
徳丸は、Panasonicの顧客接点変革の一例として、同社の製品を取り扱う公式通販・ショッピングサイト『Panasonic Store+』の例を挙げた。
「前身の『Panasonic Store』は、カスタマイズパソコンの販売として成功していましたが、家電の販売についてはカタログ的に無機質に商品が並ぶ、特徴に欠けるオンラインストアでした。その中で、メーカー直販ならではの新たなビジネスモデルとして開発したのが、家電のサブスクリプションという新サービスです。さまざまな部門の協力のもとで実現できたサービスですが、従来の購入顧客とは異なる若年層の獲得など、直販サイトならではの新たな接点拡大に繋がっています。
このサイトは、全体の世界観を“暮らしの豊かさ”を感じられるようなデザインに一新し、チャット相談や商品360°ビュー、ARによる大型商品の自宅設置確認など、購入をサポートする様々な機能を導入しました。商品・サービスだけでなく、UI/UX面でもここでしか体験できない価値づくりを目指しています。
まだまだできていないことも多く、これが完成の姿ではないため、“より使いやすく、便利”にといった機能的価値とともに、ユーザーに寄り添った情緒的価値を両立するサイトへと、現在進行形で生まれ変わっています」。
DXの実践者に必要なマインドセットとは?
リアルなDXの実際を伝えた学生たちへの講義終了後に、徳丸と安田にあらためて、さまざまなかたちで企業のDX推進を手がけるビジネスパーソンに向けたメッセージをもらった。
企業内の次世代DXリーダーに対しては、徳丸がこんなエールをくれた。
「DXおよびデジタルマーケティングの手段/プロセスは、いまではかなり整理されてきたと思います。しかしその成果はというと、まだはっきり出ている例は多くありません。それはこれまで成功してきた企業になればなるほど、その企業ならではの考え方・やり方を大きく変化させることが、難しいからだと思います。
忘れてはならないのは、DXやデジタルマーケティングはすべての解決策ではないということ。デジタルの力を活用しても、最後に成否を決めるのは、やはりヒトであり、ヒトの意識なのです。真にDXを成功させるということは、ヒトの意識が変わり、その企業全体の意識も変わることにほかなりません。重要なのは、“デジタル”という手段に惑わされず物事の本質を見極められる力をもてるか。ユーザーの気持ちや行動にどれだけ想像力をもってあたれるか、が本質に迫るためのキーだと思います」
「DX推進を社内あまねく自分ごと化できるか。情熱をもったミドルリーダーの存在が鍵」電通デジタル 執行役員 ビジネストランスフォーメーション部門 部門長
安田は、企業のDXを多数支援してきた経験からこう語った。
「DXはトップの意思が重要とよく言われます。それは当然、否定しません。が、日本型企業のDXを推進するためには情熱や思いをもった“ミドルリーダー”の存在がキーになると感じています。
既存事業を熟知しながらも、ありたき姿を描き、新たな挑戦を両輪で推進できるのはミドル層としての経験をもってしてだと思います。変革を切り拓くのは“意思をもったミドルリーダーとその意思に集う社内外の仲間たち”であると痛感しています。
DXをスムーズに推進するために、社内の理解が必要なのは当然です。人数の多い大企業であればあるほど、その変革は簡単ではないでしょう。
しかし未来にサステイナブルであろうとする企業ならば、この改革は避けて通ることはできません。新たな挑戦に、私たちも意思をもったチームで挑んでいきます」。
電通デジタル
https://www.dentsudigital.co.jp
とくまる・けんたろう◎1992年資生堂入社。ビューティープラットフォーム「ワタシプラス」立上げ/運営などEC事業を手がけ、2019年にパナソニック入社。現在は 戦略本部CCXOチーム顧客エンゲージメントリーダー及びコンシューマーマーケティングジャパン本部エンゲージメントセンターオウンドメディア推進部長を兼任。
やすた・ゆみこ◎石川県生まれ。98年、電通に入社し、資生堂、ディズニーなどの広告担当などを務めた後、16年に電通デジタル出向、DX部門に。2022年電通デジタルに入社し、執行役員ビジネストランスフォーメーション部門 部門長に就任。
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