企業はDX推進によって得た顧客データを活用し、何をすべきなのか。その重要なテーマのひとつが、“顧客体験(UX/CX)の向上”だ。
「収集した顧客データは、販促活動のブーストに使用するだけでなく、ユーザーに対する新たな価値を生み出すためにどれだけ活用できるかが重要です」
「dポイント」を手がけるNTTドコモ マーケティングプラットフォーム本部 マーケティングメディア部 会員基盤戦略担当部長の南部美貴の方針は明快だ。
その改革に立ち上げ期からクライアントの事業部門にチームの一員として参画し「常駐型」で厚く支援を行ったのが、電通デジタル CXトランスフォーメーション部門 部門長の小浪宏信だ。
両者が「dポイント」を軸に起こしたDXとはどのようなものなのだろうか。
「dポイント」の狙い
南部美貴(以下、南部):「dポイント」の前身は、ドコモの携帯をご契約しているお客様向けの「ドコモプレミアクラブ」で付与していた「ドコモポイント」でした。携帯のご利用におけるお客様との接点は端末の買い替えや料金プラン変更のタイミングで、早い方でも2年に1回ドコモショップでお会いできるという状況でした。
2015年に「ドコモポイント」を進化させて街のお店やネットショッピングで利用できる共通ポイント「dポイント」をスタートしたことで、ドコモの回線契約をおもちでないお客様を含め、お客様との日常的な接点が拡大しました。
dポイントをご利用いただくお客様が増えたため、18年に「dポイントクラブ」の会員をベースとした事業運営に切り替え、会員お一人お一人に対するマーケティングのデジタル化が急務となり、「デジタルマーケティング推進部」(以下、デジ推)が設立されました。
小浪宏信(以下、小浪):私たちはデジ推の立ち上げをご支援するために、常駐型サポートを開始しました。DX実現のためには、発注側・受注側という垣根を越えたワンチームが必要だと考えたからです。
私たちが行っているのは、コンサルティングではなく「実行支援」。スピーディな施策実行を考えたとき、常にプロジェクト内にいることが重要と考えたのです。
私たちは企業のDXにおける成長フローを、環境整備段階の「立ち上げ期」、施策を実行していく段階の「実践期」、デジタル/UX組織としての未来を描く「定着・拡大期」の3段階で考えています。NTTドコモ様には「立ち上げ期」の段階から参画し、初期の段階から戦略的な組織の広げ方まで提案することができたのが功を奏したと思います。
南部:私はマーケティングの取り組みを強化するために19年にデジ推に異動となりました。それと同時にサービスごとの取り組みをいかに連携させるかというミッションも担うこととなったのです。
そんなとき、電通デジタル様の顧客起点の“カスタマージャーニー”という視点と、DXによって実現する“会員お一人お一人に寄り添ったご利用機会を創出する”という観点が、私の目を開きました。DXが生み出すUX/CXの向上が描き出す未来が、そこに見えた気がしたのです。
そうして周囲へ働きかける日々が始まりました。同じ志をもつ仲間を増やすことが私の第一段階の使命となったのです。
DX推進「実践期」を迎えて
南部:着任当初は周囲の理解がなかなか得られなかったというのが感想です。会員を主軸に、データを通じて顧客理解を深めながら進めていく利点を共有するのは一苦労でした。
デジ推では会員を拡大するための施策が中心でしたが、20年7月に「マーケティングプラットフォーム本部」になったことで、会員のお客様にdポイントをたくさんためたり使ったりしてもらうことと、いかに自社の事業成長機会を創出できるかを両立するミッションへとシフトしました。
会員数だけでなく、お客様がdポイントをためたり使ったりする回数・頻度も重視しました。お客様との接点が多いとNTTドコモの回線やコンテンツサービスの利用にも相乗効果があるということを周囲に理解してもらう必要があると考えたためです。そのために必要だったのは、やはり成功体験でした。
具体例としては、大ヒット映画とのタイアップ施策があります。映画公開時にdポイントをためたり使ったりするとプレゼントがもらえるキャンペーンを行い、そこにエントリーしたお客様に動画配信サービスでの関連作品配信をご案内しました。お客様の関心やタイミングを踏まえたコミュニケーションにより大きな成果を得ることができました。
小浪:そうした成功例が出始めたのは、DXの成長フローが「実践期」に入ったということなのだと思います。「実践期」のキーとなるのは南部様のような優秀で実行力のあるミドルマネジメントの存在です。経営層への説得と、チームおよび横連携すべき事業部へ自分の考えを浸透させることを、並行して実現できる人材が不可欠なのです。
また、失敗を当然と考えることも重要です。あらかじめ高頻度のトライ&エラーを前提とした業務フローと体制を構築しなければなりません。
「定着・拡大期」に何をすべきか
南部:「dポイント」は7年目を迎え、会員数も8,500万人を超えました。当初の懸案だった“ドコモの契約がないと使えない”というイメージも払拭しつつあります。
そのうえでいまは、お得さだけではないdポイントの使い方を考えています。お客様の生活のなかで、dポイントによって新たな価値・体験を感じてもらえるかを考えの中心に据えています。例えばdポイントを活用して混雑を回避して来店したり、テイクアウトへの切り替えを促したりするような仕掛けを実験中です。ほかにもCO2削減など社会課題の解決のためにdポイントを活用するなど、新たな価値創造をR&Dチームと一緒に目指していきたいです。
小浪:DXによって、さまざまな可能性が広がった理想例ですね。企業のフレームワーク強化そのものにつながっている。定量・定性のさまざまなデータやインサイトを活用し、既存のUXの改善、新たなUXの創造につながる「UX企画力」と言い換えてもよいかもしれません。
私はこうしたUX企画力をもった人材の育成を目的として設立された一般社団法人UXインテリジェンス協会で副事務局長も務めているのですが、そこではDXの本質を“優れたUXの実現”と定義しています。「UX企画力」を質・量ともに問われる段階にきたNTTドコモ様はまさに、DXの「定着・拡大期」を迎えました。同社の改革は、社会構造自体の変革を起こしていく可能性があります。我々はこのような変革リーダーの皆様に寄り添い、乗り越えるべき課題の多い企業の変革をご支援していければと考えています。
電通デジタル
https://www.dentsudigital.co.jp
こなみ・ひろのぶ◎電通国際情報サービスに入社後、2002年電通イーマーケティングワン(現電通デジタル)の立ち上げに参画。その後、電通デジタルCXトランスフォーメーション部門 部門長に就任。UXインテリジェンス協会副事務局長も兼任。
なんぶ・みき◎日本電信電話へ入社後、NTTコミュニケーションズを経て、2012年よりNTTドコモに在籍。現在はマーケティングプラットフォーム本部 マーケティングメディア部 会員基盤戦略担当部長として、dポイントによるマーケティングを手がける。
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