PTSDによって、中年女性の認知機能低下が加速か

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女性が心的外傷後ストレス障害(PTSD)の重い症状を長期にわたって経験すると、中年における認知機能低下を悪化させる可能性があることが、最新研究で明らかになった。認知機能の低下は、混乱や記憶障害の頻発を招き、運動機能に支障をきたす場合もある。

認知機能の低下は、アルツハイマー病や、他のタイプの認知症、入院率の上昇、フレイル(加齢により心身が衰えた状態)につながったり、死期が早まったりすることがあるとされてきた。PTSDと認知症はともに、男性より女性に多い。PTSDについては、米国で暮らす女性のうち推定で約8.6%に発症経験があるのに対し、男性は4.1%だ。

米国女性におけるアルツハイマー病発症リスクは、65歳で21%になる。しかし、同年齢の男性のリスクはその半分にすぎない。

米国を拠点とする研究チームは、PTSDが中年女性の認知機能を低下させるリスク因子なのかどうかを確認するため、大規模な研究を実施。その結果をまとめた論文を、医学誌「JAMAネットワーク・オープン」で2022年6月30日付けで発表した。研究対象は女性1万2270人で、年齢は50歳から71歳だ。

研究参加者のうち、PTSDの症状があると答えた女性は67%にのぼった。これらの女性は、PTSDの症状を経験していないと答えた女性に比べて、うつ状態を示すスコアが高く、うつ病と診断された割合も高かった。

PTSDの特徴的な症状には、過去を追体験する(フラッシュバック)、悪夢を見る、重度の不安に悩まされる、悲惨な出来事を繰り返し思い出す、気分が変調する、などがある。そうした症状は、治まるまで数カ月を要し、ときには何年も延々と続くことがある。

研究によると、PTSDの症状が重かった(症状が6つから7つ)女性は、症状がまったくなかった女性に比べて、認知機能の変化を示すスコアの変化率が著しく悪かった。

研究では、研究参加者の学習記憶、作業記憶、注意力、精神運動速度(Psychomotor speed:情報処理、反応、動作などの速度)を3年にわたって評価した。また、糖尿病や高血圧症など、認知力に影響を及ぼしうる他の要素についても考慮された。しかし、それらのなかで、学習記憶ならびに作業記憶の時間に伴う変化と有意に関連していたのは、参加者の年齢と、心臓発作の発症リスクのみだったと研究チームは指摘している。

「PTSDの症状が重かった女性は、症状がまったくなかった女性に比べて、学習記憶と作業記憶の認知機能がおよそ2倍の速さで低下していた」と研究論文は述べている。

研究チームは、こう付け加えている。「このたびの知見は、戦争体験やホロコースト、幼少期の性的虐待といった極度に強いトラウマにさらされた人々を対象にした、過去の横断的研究結果と一致している」

「女性のPTSDならびに認知症の生涯有病率が高いことを踏まえると、PTSDをリスク因子と特定することは、PTSDそれ自身が問題であるだけでなく、認知機能の健全性にも関連している可能性を示唆している。このような知見は、PTSD患者を対象にした認知機能検査を早期に実施することがいかに重要かを裏づけている」

研究者は、参加者の96%近くが白人女性看護師だったことは、この研究の重大な限界であることを認めている。つまり、今回の知見は、白人以外の集団には当てはまらない可能性が否定できない。

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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