発端となったのはブルームバーグの先週の報道だ。テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が、ベルリンとテキサス州オースティンの工場について「お金の巨大な燃焼炉」になっていると述べたという内容だ。このニュースはテスラをめぐるFUD(恐怖・不安・疑念)を増幅させ、同社の株価は下落した。
ただ、株主はFUDにあおられないよう注意する必要がある。
公平な立場から言えば、マスクはたんに現状を正直に語っただけだろう。新しい工場は生産を増強していくにつれて巨額の資金が費やされるものだし、イノベーションサイクルの間はとくに設備費が膨らむことがある。新たに雇った従業員の訓練や、サプライヤーから調達する部品の備蓄、継続的に発生する建設費などもかさむ。一方で、不具合をつぶしていく必要から生産量は限られる。
ベルリンとオースティンの工場は、2019年の稼働開始以来、大きな成功を収めてきた上海の「ギガファクトリー」をさらに進化させたものだ。量販車「モデル3」の生産増強のために開設された上海工場は広大な敷地面積をほこり、ロボットによる最新の組み立て設備を擁する。ベルリンとオースティンの工場はそれよりもさらに規模が大きく、より進んだ技術を導入したギガファクトリーだ。
あいにく、マスクはこのところ自身に批判的な人たちにみずから攻撃材料を提供する癖がある。今回の発言は、2018年にやはりブルームバーグが配信した「燃料は燃やさないが現金を燃やすテスラ」という記事を投資家たちに思い起こさせた。
テスラがモデル3の生産を拡大しようとしていた当時は、テスラ株の投資家にとってとくに暗鬱な時期だった。製造がまだ不慣れだったことにサプライチェーン(供給網)の障害なども加わり、生産が遅々として進まなかったからだ。マスク自身、この生産地獄によってテスラは経営破綻の淵に追い込まれたと、のちに振り返っている。
だが、いまのテスラは破産とはほど遠い状態にある。2021年には営業活動によって前年比94%増の115億ドル(約1兆5700億円)のキャッシュを生み出している。受注残は業界最高水準にあり、受注生産の事業モデルのため新車が売れ残ることもない。半導体不足や資源高に悩まされている自動車業界ではかなり恵まれた立場にある。
ただ、FUDはまた別の話だ。テスラに関するネガティブな記事は、クリックや「いいね」、シェアの数が伸びる傾向にある。こうした記事は、意味があるかどうかにかかわらず投資家の心理に影響を与え、結果としてテスラの株価を下げてしまうのだ。