今回のリポートによると、富裕層の流入が多い国のトップ10には、上から順にUAE、オーストラリア、シンガポール、イスラエル、スイス、米国、ポルトガル、ギリシャ、カナダ、ニュージーランドがランクインした。ここで言う富裕層とは、米ドル換算で100万ドル以上の資産を持つ人々で、リポートではこうした人たちを「個人富裕層(high net worth individuals:HNWI)」と呼んでいる。
逆に、流出が最も多かった国や地域については、多い順にロシア、中国、インド、香港、ウクライナ、ブラジル、英国、メキシコ、サウジアラビア、インドネシアが並んだ。調査会社ニュー・ワールド・ウェルス(New World Wealth)のデータを引用する形で、ヘンリーはそう報告している。
世界規模で個人の財産や投資移民の動向を追跡調査しているヘンリーでは、こう予測している。「民間資本の『津波』がロシアとウクライナから押し寄せる一方で、英国は富のハブとしての王座を失い、これまで世界中の富裕層を引き寄せてきた米国の魅力も急速に色あせている。そんななかで、流入する富裕層の純増数に関して、2022年通年ではUAEが米国を追い抜き、全世界でトップとなるとみられる」
UAEは、ロシアから脱出した富裕層のあいだで人気があるうえに、さらに個人の財産や資本、人材を招き入れようとしてさまざまな法規制を採用した、とリポートは指摘している。
「コロナ前の時期と比べると、移住を望む富裕層のあいだで、米国の人気は大幅に落ちている。これには増税の脅威も一因となっていると考えられる。それでも米国では、他国への移住によって減る人数よりも、流入してくるHNWIの数のほうが多く、2022年には1500人の純増が予想されている。とはいえこの数字は、1万800人の純増だった2019年のレベルと比較すると、実にマイナス86%という大幅な減少だ」と、ヘンリーは指摘している。
さらにリポートによると、「富裕層の国外への移住」という波は、中国にも襲いかかろうとしており、2022年には差し引きで1万人のHNWIが国外に流出する見込みだという。
「中国ではここ数年、全体的な富の成長ペースがスローダウンしている。そのため、最近のHNWI流出が与える影響は、過去と比較してもより大きくなるおそれがある。また、オーストラリアや米国との関係が悪化していることも長期的な懸念事項だ」と、ニュー・ワールド・ウェルスの調査責任者、アンドルー・アモイルス(Andrew Amoils)氏は述べた。
「資産家やその家族が移住先として魅力を感じるのは、犯罪率が低く、他国と比べても優位性のある税制が用意されていて、魅力的なビジネスチャンスがある、安定した国であることが多い」と、アモイルス氏は付け加えた。