ビジネス

2022.05.26

1億ドルの売り上げを達成した競売会社サザビーズのNFT戦略

Tony Baggett / Shutterstock.com

今年の「ブロックチェーン50」に選出された50社の中でも象徴的な企業の一つが、老舗競売会社「Sotheby’s(サザビーズ)」だろう。NFT(非代替性トークン)の台頭により、アートビジネスも急速に進化しようとしている。


2020年秋、老舗競売会社サザビーズの社員が、新CEOのチャールズ・スチュワート(52)に、「NFTを導入してはどうか?」という提案を行った。

今でこそ「 Bored Ape Yacht Club(ボアード・エイプ・ヨット・クラブ)」や「CryptoPunks(クリプトパンク)」といったデジタルアートを誕生させたことで知られるNFTだが、スチュワートは「それから1年の間に何が起こるのか、まったく予想もつかなかった」と振り返る。それが21年、サザビーズではNFTアートなどのデジタルコレクションの売り上げが約1億ドルに達した。

NFTが次世代のコレクターを取り込むために大きな役割を果たしていることは間違いない。21年4月、匿名のデジタルアーティストPak(パク)の作品をオークションにかけ、約3000人の顧客から1680万ドルの売り上げを達成した。その後、サザビーズのオークションで最も人気のあるNFTアートのデジタルキャラクター2点が過去最高の落札額を記録している。一つは21年6月に1180万ドルで落札された希少なエイリアンのクリプトパンク、もう一つは10月に340万ドルで落札された金色の毛で覆われたボアード・エイプである。

サザビーズは暗号通貨ファンを取り込むために21年5月、ビットコインとイーサリアムでの支払いを受けつけると発表。同年11月、米合衆国憲法の初版が同社のオークションに出品されると、ツイッター上で集まった分散型自律組織(DAO)の投資家集団「コンスティテューションDAO」が4000万ドル超のイーサリアムをクラウドソーシングで調達して購入を試みた。だが、結果的に4320万ドルで資産運用大手シタデル創業者のケン・グリフィンに落札されている。

サザビーズの最終的な目標は、暗号通貨のファンを美術品やワイン、宝飾品のコレクターに変えることだ。つまり暗号通貨という選択肢を与えることで徐々に顧客層を広げ、ビジネスの拡大につなげていく好循環を生み出すことである。

サザビーズにとって、NFTは若い富裕層にアプローチする素晴らしい方法だが、ハイリスクな資産でもある。サザビーズは22年2月、3000万ドルもの落札額が予想されるクリプトパンク104点のオークションを開催すると大々的に発表した。ところが、予定開始時間の30分後に売り手が出品を取りやめ、オークションは中止された。おそらく、イーサリアムの価格がここ3カ月で35%も下落したことが原因だと思われる。

そのうえ、投資家のNFTに対する理解度の問題もある。「NFTは非常に面白い。だが、NFTを販売すると、『これで何をすればいいのか?』と聞かれることがある」と、サザビーズのバイスプレジデントでデジタルアート部門共同責任者のマイケル・ブーハンナは話す。

「NFTは絵画を所有するのとは違いますよね。どうするかはすべて、あなた次第なのです」

文=アブラム・ブラウン 翻訳=岡本富士子 / パラ・アルタ 編集=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.095 2022年月7号(2022/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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