ボストン大学公衆衛生大学院のマーシャ・ペスカドール・ヒメネス助教授らのチームはこの研究で、女性の慢性疾患のリスク要因を調べたものとしては全米最大級の研究「第2次看護師保健調査(NHS II)」から抽出した女性1万3594人を対象に、緑地と認知機能の関連性をさぐった。
研究チームは、対象者の緑地に触れている度合いや認知機能の測定値などのデータを取り込んだうえで、衛星データに基づいて植生の繁茂状況を指数化した「正規化植生指数(NDVI)」を用いて、それぞれの住所周辺に緑地や自然の植生がどれくらいあるかを調べた。対象者の平均年齢は61歳で98%は白人。住所は2013年時点のもので、今回のデータ解析は2021年6〜10月に行った。
それによると、周りに緑地の多い場所に住んでいる人ほど、大気汚染にさらされにくく、うつ病になるリスクは低く、身体活動の機会は増える傾向にあることが判明した。こうした傾向は認知機能の向上をもたらす可能性がある。研究チームはうつ病について「認知症の発症リスクに関連する重要な要素であることが実証されている」とも言及している。
2021年に米国の高齢者向け公的医療保険(メディケア)の受給者を対象に実施された研究でも、緑地の多さとアルツハイマー病の発病リスク低下との関連性が認められていた。ヒメネスらのチームは、今回の研究成果もそれと一致する結果になったと述べている。
解析結果からはこのほか、緑が多い地域に住む女性は「アフリカ系以外」「親から家を相続」「既婚」といった属性に当てはまる可能性が高いことや、緑地の多い地域は人口密度が低い傾向にあることなども明らかになった。一方、住宅地の緑地と学習や作業記憶(ワーキングメモリー)との関連性は見いだせず、緑地がもたらす効果は都市部と農村部では違いがなかったという。
研究チームは「世界的な高齢化と認知症の急増によって、新たな予防戦略が求められるようになっている」と指摘。研究成果は「認知機能の改善に向けた集団レベルのアプローチとして、緑地と触れる度合いについて調査する必要があることを示すものだ」としている。
今回の研究では、対象者に白人以外の女性が十分に含まれていないこと以外に、緑地で過ごした時間や運動をしているかどうかのデータがないという点が大きな制約になっている。