欧州連合(EU)各国も今回の選挙結果にホッと胸をなでおろしていることは想像に難くない。というのも、マクロン氏はウクライナに侵攻したロシアへの対応を主導。同国への経済制裁で他国と歩調を合わせており、原油の輸入禁止など制裁強化も辞さない考えを示していたからだ。
一方、ル・ペン氏は北大西洋条約機構(NATO)の枠組みからの脱退を主張。ロシアに対するエネルギー禁輸についても、「物価高となって国民に跳ね返る」との立場から反対してきた。ル・ペン氏が大統領の座に就くようだと、欧州の足並みの乱れを狙うロシアのプーチン大統領にとっては「思うつぼ」だったといえる。
外国為替市場では1回目の投票前に通貨ユーロがドルに対して値を下げる場面があった。世論調査でル・ペン氏の支持率が、リードしていたマクロン氏に急接近したのに伴い、対ロ制裁でハンガリーなどを除いてほぼ一枚岩だったEUに亀裂が生じるとの警戒が強まったためだ。ル・ペン氏の敗北は通貨ユーロの下支えになる公算が大きい。
25~64歳の勤労者世代はル・ペン氏支持!?
ただ、今回と同じ顔合わせだった2017年の選挙では、マクロン氏が66%超の得票率を記録するダブルスコアでの圧勝。32ポイントあった両候補の得票率の差は16ポイント余りとなり、両者の差が縮まった。
現職閣僚の1人、クレマン・ボーヌ欧州問題担当副大臣は地元メディアのインタビューに「重要かつ歴史的な勝利だが、ル・ペン氏に投票した何百万もの人々のことも考えなければならない」と話した。
仏調査会社「Ifop」の調べによれば、1回目の投票でマクロン氏とル・ペン氏を支持した有権者を年代ごとにみると、65歳以上ではマクロン氏が39%とル・ペン氏の18%を大幅に上回る。これに対して、25~64歳の勤労者世代ではル・ペン氏支持の有権者が多い。
職業別では管理職クラスの多くがマクロン氏に投票したのに対し、一般事務職クラスではル・ペン氏支持が上回る。学歴や所得水準別でも投票行動の違いが鮮明になった。こうした状況は2016年にイギリスで実施された、EU離脱(ブレグジット)の是非を問うた国民投票の結果を彷彿とさせる。
フランスのラジオ局「RTL」のフィリップ・ドヴァ・アジア特派員は、選挙結果を受け「極度の分断が明らかになった」と分析。その一例として、グアドループ、ギアナ、マルティニークなどのいわゆる海外県での決選投票で、ル・ペン氏がマクロン氏を圧倒したことを挙げている。
これらの地域は生活水準の低さや貧困の問題を抱えているため、フランス人の購買力の強化を前面に押し出すなど低・中所得者を意識した政策を掲げたル・ペン氏の訴えが奏功したとみることもできそう。ただ、これらの地域で1回目の投票で首位に立ったのはメランション氏だった。それを踏まえると、海外県では「反マクロン票」がル・ペン氏に流れた感も強い。
ウクライナ紛争の解決は引き続いて喫緊の課題。一方、国内では「分断」の危機に直面するマクロン氏。今後はますます外交と、主に首相が担う内政とのバランスの巧拙が問われそうだ。
連載:足で稼ぐ大学教員が読む経済
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