フランスでは、原材料(小麦粉のほか、電力やガソリンなど)の値上げでフランスパンの価格が高騰しているが、英国各地でも、手ごろな価格で食べられるチップス(フライドポテト)が値上がりしている。
多くのフィッシュ・アンド・チップス店経営者はすでに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック中に、インフレの影響で値上げを余儀なくされていた。ところがここにきて、さらなる値上げに踏み切ったら、経営がもう成り立たないのではないかと不安を抱いている。
『ニューヨーク・タイムズ』紙の報道によれば、英国にはフィッシュ・アンド・チップス店が全部で1万店あるが、そのうちの3000店が閉店する可能性があるという。
ガソリンと電力のコストが急上昇しているのに加え、ロシアによるウクライナ侵攻で、魚の価格も圧迫されている。ロシアへの経済制裁が実施され、ロシア産の魚の輸入規制も予定されているため、北海で獲れた魚が入手しにくくなっているうえに、価格も上昇している。
さらに、ウクライナとロシアはヒマワリ油の巨大生産地だ。そればかりかジャガイモも、肥料の値上げによる影響を受けている。
英国の業界団体「全国フィッシュ・フライヤーズ連盟(NFFF)」のアンドルー・クルック(Andrew Crook)会長は『ニューヨーク・タイムズ』紙に対し、「フィッシュ・アンド・チップス業界は、ウクライナ危機の影響をもろに受けている。なぜなら、フィッシュ・アンド・チップスの主要材料4つがみな、直接の打撃を被っているからだ。おまけに、使用量もかなり多い」と語った。フィッシュ・アンド・チップスは、魚、油、ころも用の小麦粉、じゃがいもの4つからつくられる。
いまは悲惨な状況だが、フィッシュ・アンド・チップスはかつて、小規模レストランの経営者や家族経営の店にとって、非常に儲かるビジネスだと考えられていた。なにしろ、フィッシュ・アンド・チップスは英国の文化に深く浸透している。BBCによれば、第2次世界大戦中でも、英国政府はフィッシュ・アンド・チップスを決して配給制にしなかったほどだ。困窮をきわめた当時、英国民の士気を保つためには、心安らぐ食べ物であるフィッシュ・アンド・チップスを提供し続けることがどうしても必要だった。
現在のようなフィッシュ・アンド・チップスが誕生したのは1860年代のことだ。産業革命によって、蒸気で動くトロール船と製氷機が発明されたほか、鉄道網が発達して、北海で獲れた大量の魚をイングランドまで輸送できるようになった。
フィッシュ・アンド・チップスは、当時のロンドンやマンチェスターの工場などで働いていた労働者たちの腹を満たしたことで定着した。ロンドンのビリングスゲート魚市場で扱われている最も新鮮な生魚の一部は、いまでも1850年と同じルートをたどって届けられている。