富士電機の発電エンジニアである武藤寿枝は、組織において着実に実績を積み上げ、業界のリーダーとして活躍する女性に贈られる「イニシアティブ賞」を受賞した。高度なスキルとバイタリティを武器に、地熱発電分野で世界トップシェア獲得に貢献。男性比率の高い職場でチームを率いる管理職としての実績も評価され、同賞に選出された。
男女差を意識することはまったくない
「仕事で男女差を意識することはまったくありません。1+1はと聞かれたら、女性であれ男性であれ、2と答えるでしょう。そこに性差は関係ない」
発電エンジニアとして20年のキャリアを歩んできた武藤寿枝は、男社会で相当な苦労を重ねたに違いないというこちらの思い込みを、鮮やかに否定した。理系の世界は男性比率こそ高いが、他業界よりよほどフラットなのではないかと語る。
近所に自動車工場があり、子どものころよりものづくりを身近に感じていたことから、武藤は自然と工学系を志すようになった。
進学した機械工学科では、250人の学生のうち女子は14人。富士電機でも女性従業員は全体の2割程度だが、男性の多い環境に慣れていたので違和感はなかった。むしろ、女性の存在は目立つので顔を覚えてもらえるなど、有利な面もあると話す。
富士電機は、半導体からインバータ、自動販売機、発電システムまで約50万点もの製品を生産する電機メーカーだ。なかでも地熱蒸気タービン・発電機設備の受注実績は、世界4割のシェアを占める。発電所全体の基本設計を手がける武藤は、海外出張の機会も多く、ニュージーランドの現場からバリ島での学会まで飛び回る。
多忙ななか、2児の母として育児にも奮闘する。課長に任命されたのは育休明け間もないころ。「会社もなかなか大胆な人事をする」と驚いたが、懐が深い会社だなと前向きに受け止めた。
「創業から100年近い歴史に培われたものなのか、いい意味で余裕があると感じます」
武藤(左から4番目)が勤務する川崎工場は、1925年に操業を開始した富士電機の基幹工場。部署の同僚エンジニアたちとともに。
ステップアップの後押しとなったのは、本人いわく「武藤により輝けるポジションを与えてやろうという勇気ある上司」の存在や、女性リーダー育成に注力する会社側の期待だった。
富士電機は1970年に日本でもいち早く育休制度を導入した実績もあり、女性の活躍に前向きな土壌があるのだろう。昇進後は、さらなる上位職への挑戦をと、発破をかけられている。
幹部職となったいまは、自身が後輩の背中を押す立場だ。同じ部の仲間たちには「武藤さんに頼まれた仕事は二つ返事で引き受ける」「武藤さんがいるから難局も乗り越えられる」と慕われる。
仕事にも人にも真摯に向き合い、全力で邁進する姿は、周囲をも奮起させる。チームにポジティブなエネルギーを生み出す人だ。
2021年9月30日に実施された、日本最大規模の女性アワード「WOMEN AWARD 2021」授賞式の模様。左から、Forbes JAPAN 編集長・藤吉雅春、丸井グループ取締役執行役員CWOの小島玲子(インクルージョン賞受賞)、EY新日本有限責任監査法人理事長の片倉正美(ブレイクスルー賞受賞)、モデルの海音(バリュークリエイター賞受賞)、富士電機発電プラント事業本部の武藤寿枝(イニシアティブ賞受賞)、本アワードを共催するLiB代表取締役社長・松本洋介。
むとう・としえ◎1999年、富士電機に入社。発電設備納入プロジェクトの取りまとめや、基本計画に携わる。2006年から地熱発電所向けの仕事に従事し、単期容量世界最大出力を誇るニュージーランドの発電プラントを手がけた地熱発電のエキスパートとして活躍。21年度は業務の傍ら、経済産業省主催「Women’s Initiative for Leadership(WIL)」に参画。