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2022.02.23 19:00

事業の失敗から振り返る「弱者としての戦い方」

各界のCEOが読むべき一冊をすすめるForbes JAPAN本誌の連載、「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、ビットバンク代表取締役CEO 廣末紀之が「38億年の生命史に学ぶ生存戦略」を紹介する。


「強い者が勝つのではない。勝った者が強いのである」

植物学者である稲垣栄洋のこの言葉を読んだとき、私はハッとしました。

2000年代初頭、大きく時代が変わると、電気自動車の専業会社やカーシェアリング事業など、数々の事業を立ち上げてきました。しかし、リーマン・ショックで資金調達が困難になったり、ライバルが出現したりと、さまざまな理由で事業からの撤退を迫られました。

なぜ失敗したのだろう─。そう振り返ったとき、目にしたのが、冒頭の稲垣の言葉でした。

生物は、38億年という長い年月をしぶとく生き抜いてきました。それは、弱そうに見える昆虫や植物であっても、自分がナンバー1になれる場所を選ぶ、もしくは、その場所でナンバー1になれるよう進化するという、弱者としての戦い方、成長戦略をとってきたから。私が成功できなかったその答えが、本のなかに広がっていたのです。

稲垣の著書のなかで、特にビジネス色の濃い一冊が、2020年9月に発刊された『38億年の生命史に学ぶ生存戦略』です。多くのビジネスマンが「自分事」として読める一冊ではないでしょうか。

失敗を経て、2014年、私はビットバンクを設立しました。

ビットコインをはじめとした暗号資産技術を応用すれば、お金を取り巻く問題が世界規模で解消され、私たち人間をさらに進歩させてくれるはずです。それはきっと、これまでインターネットがもたらしてくれた以上の恩恵になるのではないかと、私は考えています。

とはいえ、暗号資産を取り巻く業界は、まだ黎れい明めい期です。私たちが運営している「取引所」にも、現在、圧倒的な勝者は存在していません。ただ、暗号資産取引所は、インターネットでいえば、いわばプロバイダーのようなものであり、ゆくゆくはあって当たり前の存在として、誰も意識しなくなるでしょう。

私たちにとっても、ビットバンクは将来へのステップのひとつです。暗号資産技術を活用して、いままでにできなかったことを可能にすることこそが、私たちが目指す場所なのですから。

だからこそ、いまは「弱者」であることを自覚し、社員には「狭い領域でもいい、何の分野でもいい。個人でも、チームでも、会社でも、常にナンバー1を目指してほしい」と言い続けています。

一つひとつのナンバー1を積み重ねた先につながっているのが、総合的なナンバー1であり、環境の変化に対応しながら、適切な進化を経て、生き残っていくことが、「強者」への成長戦略です。雑草しかない世界に大木が育つのは、そう遠い未来ではないでしょう。

title/38億年の生命史に学ぶ生存戦略
author/稲垣栄洋
data/PHP研究所 1650円/240ページ


いながき・ひでひろ◎1968年、静岡県生まれ。静岡大学大学院農学研究科教授。農学博士。岡山大学大学院農学研究科修了後、農林水産省に入省。静岡県農林技術研究所上席研究員などを経て現職。専門研究分野は、農業生態学、雑草科学。大学での研究のほか、雑草や生き物に関する著述・講演を行なっており、著書多数。

ひろすえ・のりゆき
◎1991年野村證券に入社。99年にグローバルメディアオンライン(現・GMOインターネット)入社し、同社取締役、同社常務取締役を経て、2006年ガーラ代表取締役社長に就任。12年よりビットコインの研究を始め、14年ビットバンクを創業。

構成=内田まさみ

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