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2021.12.01

宗教の行動様式とグローバルジャイアントが日本で生まれない理由

米SF市街地のGoogle近くにある聖パトリック教会 photo by Kit Leong / Shutterstock.com


ジェフリー・A・ムーアが示したキャズム理論は、新製品の普及率がイノベーターとアーリーアダプター層を足した数に相当する16%を超えると、そこから先は息せき切ったように普及のスピードが急加速することを広く知らしめました。

この事実からも、完全競争市場を勝ち抜くには、調達したリソースのすべてを「意思決定のスピード」と「ビジネスのスケール」に注ぎ込み、素早く市場を制圧すべきなのが分かるでしょう。

「いち早くマーケットに参入し、圧倒的なシェアを獲得するまで総力戦でやり抜く」。この戦略の有効性は年を追うごとに高まっているといえそうです。例えば、生まれたてのスタートアップが、時価総額10億ドルを超えるユニコーン企業になるまでの期間が大幅に短くなっているという点を見れば、頷けるはずです。

しかしここで新たな疑問が生まれます。「スピードとスケールの最大化」が、成功の条件であることは誰の目にも明らかなのに、なぜ着実に成功の果実を手に入れているグローバルジャイアントの発祥が米国に集中しているのかという疑問です。

その謎を解くヒントは、意外なところにありました。

発祥が米国に集中。キリスト教との意外な関係


西欧文化の基盤を成すキリスト教は、ローマ教皇を頂点とするカトリックと、16世紀に起こった宗教改革によって派生したプロテスタントに大別されることは、皆さんもご存じの通りです。

しかし、このプロテスタントの歩みと資本主義の歩みが重なることは、西洋の歴史や宗教史に疎い日本人には意外なことかも知れません。

しかし、年表をひもとくとプロテスタントの存在感が増すのと歩調を合わせるように、現代に通じる資本主義の基盤が整ってきたことがよく分かります。

●プロテスタントと資本主義浸透の歴史


プロテスタントと資本主義の浸透の図
作成:アクセンチュア

プロテスタントは、ドイツの神学者マルティン・ルターによる宗教改革運動に起源を持つ宗派です。その名の由来であるプロテスト(異議申し立て)が示す通り、権威主義に堕したカトリックへの批判が原点にあるため、行動主義と目的合理性が高いという特徴があります。

「契約」を重視する姿勢は、プロテスタントに限った特徴とは言えませんが、神との契約を信仰の基盤に置くキリスト教各派に共通するものとして、当然プロテスタントにおいても大切にされているのは言うまでもありません。

救われる人は信じる人、予定説に導かれ勤勉かつ行動禁欲的なプロテスタントが理想とする生き様は「崇高な目的のためにあらゆる努力を払うことは美徳」であり、「目標達成の過程で生じた利潤は拝金主義とは一線を画す良きこと」であるという倫理観や行動様式を形成し、結果として私的資本の蓄積が進み資本主義の成長を後押していきました。
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文=中村健太郎(アクセンチュア)

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