米イリノイ州シカゴにある食品技術者協会(IFT)のジョン・ラフ最高科学・技術責任者(CSTO)は長年にわたり、増大する世界的な食料不安や食料安全保障の問題に取り組んできた一人だ。そのラフが、これらの問題の解決につながるものとして特に注視しているのは、食料供給に取り入れることが可能な次の3つの技術だ。
アップサイクリング
国連環境計画(UNEP)が発表した世界の食品廃棄に関する報告書「食品廃棄指標報告2021」によると、1年間に廃棄される食品は、およそ9億3100万トン。1人あたり74kgにのぼる。
ラフによると、生産から販売までの過程で廃棄物を大幅に減らすことができる方法の一つは、それまで廃棄されていたものをアップサイクルして利用することだ。米国などではすでに、アップサイクリングによって付加価値が与えられた製品が販売されている。
以前は廃棄されていたビールの醸造所から出る「麦芽かす」をプロテインバーなどの食品の原料として使用することや、麦芽粉末に加工することなどがその一例だ。
植物肉と培養肉の生産技術
国連食糧農業機関(FAO)は2012年、2050年には世界の食肉需要が2005年比76%増のおよそ4億5500万トンに達するとの試算を発表している。だが、集約畜産は温室効果ガスの排出や持続不可能な水と土地の利用、生物多様性の喪失につながることから、これは公衆衛生と動物福祉、環境にとって、大きな問題だ。
こうしたマイナスの影響を克服する機会を提供してくれるものとして期待されるのが、植物由来の(植物性タンパク質を使った)代替肉や、(動物の細胞を体外で組織培養する)培養肉だ。
--{2040年には世界で消費される肉の35%が培養肉に?}--
コンサルティング会社カーニーの推計では、2040年には世界で消費される肉の35%が培養肉になるとみられ、代替肉市場は2026年までに、90億ドルを超える市場になると予測されている。
培養肉の開発を行うイスラエルのスタートアップ、フューチャーミート・テクノロジーズは、1日にバーガー5000個分の培養肉を生産できる工場を開設。食品大手ネスレも培養肉市場に参入している。
また、植物由来の人工肉を製造する米インポッシブル・フーズのパット・ブラウンCEOは、2035年までに畜産を完全に代替肉に置き換えることを目指す考えを明らかにしている。
サプライチェーンのデジタル化
新型コロナウイルスのパンデミックは、食料生産に対する関心を高め、構造的な不平等や世界の食料不安を増大させてきた業界の効率の悪さを露呈したといえる。
ただ、食品供給ネットワークにデジタル化や人工知能(AI)、ビッグデータがもたらされたことは、サプライチェーン全体に変化の機会を提供している。ラフは、データを分析し、解釈するためのAIの利用、そしてIoT(モノのインターネット)センサーが、「食品の安全性と栄養価の均一性を高め、廃棄物を削減することにつながっている」と指摘している。