SNPによると、ブレグジット移行期間終了直後の今年1月~5月の輸出額は2019年の同時期から約1億570万ポンド(約159億円)減少。1月~3月の3カ月間では19年同時期比で約1億3590万ポンド(約200億円)減だった。
一方、ブレグジット支持派の保守党が率いる英政府は、SNPの主張は誤解を招くものだと反論。新型コロナウイルスの流行による影響や、輸出が昨年から増えていることを考慮すると、結論は難しいと主張している。
両者の中間にいるのが、業界団体のスコッチウイスキー協会(SWA)だ。SWAは、2020年に激減した輸出が現在は回復傾向にあるとしつつも、ブレグジットにより生まれた貿易面の変化によりEU域内での事業運営に障害が生じていることを認めている。
スコッチウイスキー事業の運営コストは、ブレグジットにより確実に増えている。これは、そうしたコストを吸収できる大企業にはある程度有利に働く一方で、中小企業の生存を危うくする恐れがある。例えば、EUから輸入される資材の価格は上がっている。SNPの貿易担当幹部、ドルー・ヘンドリーは6月、ウイスキー産業が使用する厚紙とガラスの価格がそれぞれ12%と7%上がっていると指摘した。
多くの英小売業者は移行期間終了後、EUへの出荷を行なっていなかった。世界最大のウイスキー販売サイト「ザ・ウイスキー・エクスチェンジ(The Whisky Exchange)」は数カ月にわたりEUに出荷できない状態が続いていたが、最近になって出荷を再開。ウイスキー販売サイト大手「マスター・オブ・モルト(Master of Malt)」は、現在もEUに商品を出荷していない。
EUと英国の間では自由貿易協定が結ばれたにもかかわらず、ブレグジットにより輸出のプロセスは複雑化した。スコッチウイスキー協会は公式サイトのブレグジット関連ページで、出荷の遅延や中断、対EU輸出のコスト増加と手続きの複雑化、北アイルランドへの出荷で現在も生じている問題を指摘している。
スコッチウイスキー業界が今のところブレグジットによる恩恵を受けていないのは明らかだが、それでも昨年に比べると状況はましだ。昨年は米国の関税とコロナ禍による先行きの不透明さから、全体的な売り上げが大きな打撃を受けた。しかし、EUはスコッチウイスキーの主要市場の一つであり、ブレグジットによる不安が近い将来消えることはなさそうだ。