「アクテムラ(Actemra)」の商品名(EUでは「RoActemra」)で知られるこの薬を製造・販売するスイス製薬大手ロシュの子会社、米バイオ医薬品企業のジェネンテックによると、米国内のトシリズマブの需要は、「ここ2週間だけをみても、パンデミック発生前と比べて400%増を大きく上回る水準に達している」。そのため、8月20日には在庫が底を突く可能性があるという。
ジェネンテックはさらに、次の入荷分は8月末までに米国に到着する予定であるものの、入院者数が増え続ける現在の感染状況からみて、供給不足は「少なくとも数週間から数カ月」、続く見通しだと述べている。
WHOが使用を推奨
トシリズマブは、入院が必要になった新型コロナウイルス感染者の治療薬として、緊急使用許可を取得した数少ない薬の一つだ。ウイルスそのものを標的とするのではなく、免疫の過剰な働きによる炎症反応を抑える目的で使用される。
世界保健機関(WHO)は今年6月、トシリズマブは人工呼吸器やエクモ(ECMO、体外式膜型人工肺)などが必要になった重症患者の死亡リスクを低減させるとして、投与を推奨すると表明した。
だが、これまでに実施された臨床試験の結果にばらつきがあることから、今のところ使用を正式に承認した国はなく、いずれも緊急使用許可にとどめている。
増産も供給は追い付かず
WHOは8月18日、低・中所得国の感染症予防・治療を支援する国際機関、ユニットエイド(UNITAID)と共同声明を発表。デルタ株による感染拡大によって入院者数が急増する中、「トシリズマブが世界的に不足している」と述べ、ロシュに対し、トシリズマブの製造に必要な技術やノウハウを広く共有することを求めている。
WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は、ロシュは数が限られたこの薬について、「すべての国に公平に供給されることを保証する必要がある」と主張。供給が追いつかない状況の中、同社には「さらなる対応」が必要だと訴えた。
ロシュは16日の発表文で、パンデミックの発生以降、世界的な需要に対応するため、トシリズマブの生産拡大を図ってきたものの、今後「数週間から数カ月」にわたって世界的に供給が不足する見通しだと警告。同時に、同社(そしてトシリズマブに関連する特許権を保有する中外製薬)は、低・中所得国での製造を他社に認める考えがないことを明確にしている。