脱炭素社会の実現に欠かせないのが再生可能エネルギーの利用促進。主力電源として期待を集めるのが風力発電だ。米国は風力発電大国。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)がまとめた統計によると、2020年の風力発電の発電設備容量は世界全体で約732ギガワット(73万2000メガワット)。このうち、米国は117ギガワットで中国に次ぐ2番手だ。世界全体の約16%のシェアを占める。
ところが、この大半は陸上風力発電だ。洋上風力のシェアはわずか同0.1%にすぎない。米国の新聞でこんな記事を目にした。「欧州には5400基の洋上風力発電のタービンがあるのに対し、米国はわずか7基」。
米国で洋上風力発電のタービンが始動したの2016年12月。東海岸のロードアイランド州のブロック島沖にある発電所だ。同国唯一の商業用の風力発電所で、出力は5基のタービン合計で30メガワット。残る2基は同じく東海岸のバージニア州沖の試験プロジェクトのタービンだ。出力は計12メガワットで、7基を合わせても42メガワットにとどまる。
洋上で存在感を示すのは欧州勢。英国を筆頭にドイツ、オランダ、ベルギー、デンマークなど欧州各国の発電設備容量は計24ギガワットあまりで、全体の7割強に達する。中国は洋上風力でもトップの英国に次いで2位。米国の立ち遅れは明らかだ。
100年前の法律が洋上風力普及の妨げに
米国の場合、「広大な敷地があるのだから、これまでは陸上風力だけで十分だった」。むろん、こうした解釈も成り立つだろう。ただ、洋上風力で欧州や中国の後塵を拝する理由はそれだけでない。実は法の存在が普及を妨げてきたのだ。「ジョーンズ法(Jones Act)」という1920年制定の法律である。ジョーンズ法は米国内の地点を結ぶ物の輸送を行う船舶に米国の造船所での建造、米国船籍、米国人船員の配乗などを義務付けたものだ。
法律が壁となって立ちはだかってきたのはなぜか。大陸棚での風力発電のタービン設置には通常、建設作業の専用船が必要。日本の株式市場で、作業船の建設を手掛ける清水建設や五洋建設などが「脱炭素関連銘柄」として注目を集めるのは、世界的な洋上風力発電ブームで需要が膨らむとの期待があるためだ。