「自然消失」と「気候変動」の取り組みをより連動させるべき理由

自然消失問題への取り組みをいまこそ(Unsplash)

気候変動への危機意識が高まっていますが、私たちは同時に自然の消失にも目を向けるべきです。世界経済フォーラムのアジェンダからご紹介します。


・最新の報告書では、気候変動対策の一環として、自然の消失に対処する重要性が示されています。
・本報告書は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)と生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)が発行したものです。
・未来を切り開くのは「自然に基づく解決策」です。

自然の消失と気候変動という2つの危機は、切っても切れない関係にあります。しかし、国連の生物の多様性に関する条約と気候変動枠組条約という国際的な枠組みのなかでも、生物多様性の損失と気候変動は、長い間別々の問題として議論・対処されてきました。しかしいま、私たちは重要な転機を迎えています。

今回、50名の気候および生物多様性の専門家から成る共同ワークショップの成果として、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)と生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)という、それぞれの地球規模課題に取り組む2つの政府間科学機関が初めて共同で報告書を発行しました。報告書が示していることは、これらの危機の解決に双方の問題への取り組みが不可欠だということです。

自然の消失への対処が重要な理由


農業や鉱業といった人間の活動は、土壌、大気、野生生物に直接的な影響を与え、その影響は気候変動や生物多様性の減少を招きます。これらの危機は相互に影響を及ぼし合い、悪化していくのです。

例えば、気候変動による気温や雨量の変化は、生き物の生息地の減少や、栄養源となるエコシステムのバランスの悪化を引き起こします。そして、生物多様性が失われれば、自然の炭素貯蔵能力が低下し、気候変動が悪化します。これらは並存する環境問題であり、人間のウェルビーイング(幸福)や暮らし、そして、公衆衛生や食料安全保障にまで関わる、深刻な影響をもたらします。

気候変動と生物多様性の損失を別々に対処し続けていく限り、問題の好転は望めません。例えば、外来種の木々を植樹して炭素を蓄える力を強化させるという手っ取り早い方法は、生物多様性および生態系サービスを根絶させてしまうリスクを孕んだモノカルチャーのプランテーション(単一作物を大量に栽培する大規模農園やその手法)を促進することになり、結果として暮らしや健康に甚大な影響をおよぼす可能性もあります。

気候変動
イメージ: World Economic Forum New Nature Economy

自然に基づく解決策とは?


良いニュースは、このようなトレードオフを回避する解決策が存在するということです。気候変動と生物多様性の減少を食い止めるには、排出量削減の取り組みと、「自然に基づく解決策(NbS)」のような、自然の繁栄を可能にするための取り組みと合わせる必要があります。

例えば、再生可能エネルギー生産のため土地を利用する場合、太陽光パネルの周りで放牧や作付けを行うなど、食べ物やクリーンエネルギーを生産すると同時に受粉媒介者やその他の野生生物にメリットをもたらすような、統合型アプローチを採用するということです。

このほかに、生物多様性のホットスポットや炭素貯蔵量の多いエコシステムで知られる熱帯雨林、泥炭地、マングローブの森林破壊を食い止めることも有益な例として紹介されています。報告書によると、私たちは地球上の陸地50%以上を食料と木材の生産に使用しています。つまり、農業や林業においてネットゼロ、ネイチャーポジティブな取り組みが進んでいけば、気候、自然、人にとって大きなコベネフィット(共通便益)がもたらされるでしょう。
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文=Marie Quinney, Specialist, Nature Action Agenda, World Economic Forum

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