由紀精密が抱える課題感を深掘りするために、まず、Whateverの川村が、大坪や永松からヒアリングを行い、課題や目的、企画のイメージなどのポイントをまとめた「クリエイティブ・ブリーフ」を作成。それらを元に、両社から企画を持ち寄り、R&Dを視野に入れてアイデアを選出していく。通常は成果が見込めるアイデアを見つけるまで、アイデア出しを繰り返す。
競合は見当たらず。「まず作ってしまえ」の精神
さっそく川村によるヒアリングが始まった。「由紀精密さんのサイトを拝見したり、企業説明を聞かせていただいて、客観的な情報は理解しました。このセッションではもう少し主観的でもいいので、ぜひお二人がイメージする由紀精密というブランドや、表にでないプロセスなどをお伺いできたらと思っています」。
川村:「まず、お二人が感じている、他社にはない由紀精密の本当の強みとは何でしょうか?」
永松は、過去の難削材の事例を引き合いに出し「お客様から他社ではお断りされてきたので由紀精密に依頼しに来ましたと言っていただきまして、もう何でもやってみよう、と言うことですね。精密加工技術を生かして、あっと驚くような製品を常に出し続けていきたいです」と語った。
Whatever CCO 川村真司
川村:「自分たちから見て、競合だと感じるような会社はありますか?」
永松は「コンサルとしてではなく、エンジニアが直接お客さまの企業に入り込み、開発の相談に向き合う会社というのは、実は私はあまり見たことがなくて、唯一無二の存在になりつつあります。頭ごなしにお断りすることはまずなくて、何らかの回答は出すようにします」と打ち明けた。
由紀精密は2008年の航空宇宙産業展に出展し、JAXAのテストパーツを受注したことをきっかけに航空宇宙産業に参入するきっかけとなったが、これまでに大坪がもっとも驚いた受注は、宇宙ゴミ(スペースデブリ)を除去する民間初の事業を展開するアストロスケールのCEO岡田光信から協力の依頼を持ちかけられたことだ。大坪は「困りごとは世の中にたくさんありますが、宇宙に散らばっているゴミを取りたいという要望には最大限に驚きました」と振り返る。
由紀精密代表取締役 大坪正人
また、ヒアリングを進めるうちに、BtoBとして表立って由紀精密の名前が出ない仕事も多く、社名を冠した製品開発の一環として冒頭の「AP-0」の開発を手がけていたことが分かった。永松が「近い目標として、ブランドの力を高めていきたいと思っています」と言うと、川村はこう突っ込んだ。
川村:「それは極端に言えば、toC向けのメーカー事業を育てていきたいのでしょうか。それともtoB事業を広げるために新たな商品のR&Dに取り組むのでしょうか?」
永松は「メーカーというのはひとつの軸としてあるのかなと思います。いまここで活躍している社員の皆さんが自分の存在を世に明らかにし、社内のモチベーションを高めるという内側の効果も込めてチャレンジしたいところです」と語った。
ヒアリングでは最適解を求める場ではないため、川村の質問は続いていく。
川村:「こういった新しい取り組みを始める時、どういったプロセスでアイデアを決めていますか。社内でアイデアの公募を行っていたりするのでしょうか?」
永松は「一部では、そういうことをやっています。まず大規模な開発に入る前に、小規模に試作を始めてみて、その結果により早い段階で判断するなどといった、自由な環境があります。ちなみにアナログレコードプレイヤーは私の判断でやってしまいました」と語った。