およそ860億個の神経細胞(ニューロン)が電気信号によって情報をやりとりする神経回路網が張りめぐらされた脳は、人間の器官のなかで最も複雑なものである。オムニシャント共同創業者のマイケル・シュグルー(42)によると、医師はブレインマップを利用することで、脳腫瘍や神経変性疾患、不安神経症やうつ病の患者にみられる神経細胞の接続異常を見つけやすくなり、経頭蓋磁気刺激(TMS)などの脳刺激療法を精確に行えるようになるという。
脳の神経接続をマッピングする技術は「コネクトーム」とも呼ばれ、磁気共鳴画像装置(MRI)の大量の画像データに機械学習アルゴリズムを適用することで開発された。フェイスブックのオーストラリア・ニュージーランド担当CEOを務めた経歴をもつオムニシャントのスティーブン・シーラー最高経営責任者(CEO)は、「脳のグーグルマップのようなもの」と表現する。
オムニシャントはシュグルーとステファン・ドイエンが2019年にシドニーで創業し、米デラウェア州ウィルミントンにも事業所を置く。19日の発表によると、今回のラウンドはオーストラリアの富豪らが主導し、オムニシャントは2億9500万米ドル(約320億円)の評価額を得た。
ブレインマップを開発したのはオムニシャントが初めてでないが、商用化は同社が初かもしれない。同社のブレインマップ製品の一つである「クイックトーム」は、2020年9月に米食品医薬品局(FDA)の認証も得ている。シュグルーは、ブレインマップ技術は「脳関連のあらゆる病気の診断や治療で絶対的な判断基準を提供するものになる」と強調する。
オムニシャントの創業メンバーたちは、ブレインマップ分野のリーダーになることをめざしている。「20〜30年後には脳データのオペーレーティングシステム(OS)が生まれているでしょうし、脳アプリのアップストアもできているでしょう。わたしたちは脳データのグーグル、あるいはアップストアになりたいと考えています」(シーラー)
調達した資金は、FDAの認証取得済みの既存製品の販売のほか、新規の研究に充てる計画だ。