ワクチンの接種率が伸び悩む米国では、職場を安全に再開させるための方法として、こうした方針を打ち出す雇用主が増え始めている。
ウォール街では、最も厳しい方針を打ち出したモルガン・スタンレーに加え、資産運用大手のブラックロックも、同様にワクチン接種を完了した従業員にのみにオフィスへの出入りを認めることとする予定。投資銀行ゴールド・マンサックスは、接種状況の報告を義務付ける。
航空業界では、ユナイテッド航空とデルタ航空が、従業員の採用条件にワクチン接種が完了していることを追加した。既存の従業員に対しては、インセンティブを設け、接種を奨励している。
公共部門では、警官の接種率が依然として低くなっており、ロサンゼルスなど一部の警察が、義務化を検討している。一方、接種を義務付けている大学は500校以上にのぼっており(職員・学生ともに対象)、教育機関は現在のところ、義務化が最も進んでいる団体・組織のひとつとなっている。
法的問題も
連邦政府は、雇用主は従業員に接種を求めることができるとの見方を示しており、法律の専門家の一部も、接種の義務化には明確な法的根拠があるとの見解を明らかにしている。
だが、これは過去にほとんど取り扱われたことがない法律の領域だ。訴訟が起こされれば多額の費用がかかると見込まれるほか、ワクチンには政治も絡むことから、雇用主の多くは接種に関して厳格な規則を定めることに警戒感を持っている。
ヒューストン・メソジスト病院では、ワクチン接種を義務付けた病院側に対し、従業員らが訴訟を起こした。「雇用主の方針に不満があれば、転職することもできる」との判断を示した連邦地裁の判決を受け、従業員らは連邦控訴裁判所に上訴している。
米国では今後も、同様の訴訟や大量解雇などが起きる可能性があり、この第2審は、これまで訴訟が起こされたことがほとんどないこの法領域において、重要なテストケースとなるとも考えられる。
接種率は伸び悩み
多くの雇用主がワクチン接種に対するインセンティブを提供している一方、依然としてワクチン忌避は根強く、接種は受けないという人の割合は高い。世論調査では、米国人のおよそ5人に1人が「強制されない限り接種を拒否する」と答えている。
ジョー・バイデン大統領はワクチン接種を義務化しない方針であり、多くの州も、企業が従業員の接種を義務化することを困難にする法律の整備に向けて動いている。
全米医療政策アカデミーによると、各州議会にはこれまでに、雇用主が従業員に対してワクチン接種を義務付けることを阻止するための法案105本が提出された。
このうちインディアナ、モンタナ、テキサス、ユタ、アーカンソーの6州の議会がすでに法案を可決。知事が署名している。また、ミズーリとニューハンプシャーの2州でも、関連法案が議会を通過している。