岩田は「自分よりも若いアトツギが戻ってきてくれて嬉しかったです。尾州の繊維産業全体が厳しいなかで、誰も戻ってこないんじゃないかとも思ってたので」と振り返る。いまでは繊維メーカーとしてライバル企業とも言えるが、かつては三星毛糸のグループ会社が宮田毛織の生地の染色を受注しており、両社の関係性は2000年代初頭から続く。
時代に合った「ひつじ x サステナブル」という勝ち筋
2人は、一宮市の行政マンも交えて、昨年12月に名古屋のジンギスカン屋で落ち合った。岩田から「ひつじサミット」の提案を受け、宮田は「僕らとしてもコロナ禍もあり、アパレル業界に売り続けるのは難しいと感じていたので、尾州の名前を広めたいと思っていたところでした。そんななかいただいた話なので、渡りに船だった」と明かす。
例えば、愛媛県北部で110年以上続く「今治タオル」や広島県福山市を中心とした国産デニムは、産地のブランディングに成功している。だが、「尾州ウール」は全国的にもまだまだ知られていない。
一方、岩田にはいまの時代に合った産地としての勝ち筋も見えていた。詳しくは後述するが、ウール自体が「究極のサステナブルな素材」であるということだ。「いまではSDGsやサステナという言葉をよく聞きますが、根源的には誰がどのように作っているか見える化することが大事だと思います。そう突き詰めていけば、素材の原料である羊に戻るんです」と語る。尾州産地としては、国内外の糸を買って、生地に仕立てる事業を展開しているが、いまこそ「糸にする前」の状態まで目を向けるべきだと感じていた。
三星毛糸(岐阜県羽島市)は除草のために飼い始めた羊と触れ合うイベントが開かれる
イベントの軸を「ひつじ」と「サステナブル」に絞り込むことで、ものづくりの現場を見せるだけでない、新しい産業観光の形を示したいという。6月6日が「ひつじの日」と制定されていることにも目をつけ、「ひつじサミット」と銘打ち、6月5、6日に愛知、岐阜両県の各企業で分散開催することにした。だが、5月から愛知県が緊急事態宣言に追加され、岐阜県はまん延防止等重点措置の対象となったことで、今回はプレ開催として規模を縮小し、今年秋に本開催する流れとなった。
ひつじサミットでは、尾州の歴史と未来を肌で感じるファクトリーツアーや、羊飼いと岩田のトークショー、羊毛でひつじの人形をつくる教室などが開かれるほか、飲食店で羊肉を使った「焼羊(羊チャーシュー)らーめん」も提供される(いずれも予約優先)。羊と触れ合える体験もあり、子どもから大人まで楽しめるように企画した。
「おばん菜割烹 みのる」(愛知県一宮市)で、6月5日に限定提供される羊肉を使った冷やしラーメン