見直される、ウールの魅力と意外な機能性
では、なぜウールはサステナ素材と言えるのか。
まず羊の毛からできているため、天然繊維のなかでもカーボンフリーを実現しているという。羊を育てるには、快適な牧場をつくることから始まる。太陽光を浴び、牧草が炭素を吸着する。また、ウールの服は化繊よりも長持ちする。
さらに天然繊維のウールは、微生物などの作用により分解する「生分解性」をもち、海洋マイクロプラスチック汚染の心配がない。岩田は「海洋マイクロプラスチック汚染というと、ストローなどのイメージがあるかもしれませんが、衣服由来の汚染は35%を占めています」と指摘する。ニュージーランド産のメリノウールブランド「icebreaker」の実験によると、ウールの生地を土に埋めると、太陽と土の力によって微生物の作用で9カ月後に、自然と分解されるという実験結果もある。ただ縫い糸だけ合繊のため残ってしまう。
ウールは天然繊維として希少性が高いため、尾州産地では端切れを綿に戻して再び紡ぐ、再利用の取り組みも進んでいる。
三星グループのウール生地。素材の風合いを引き出すことが得意な同社の生地は、天然繊維ならではの自然な光沢が美しい。
宮田は「最近では、ウール素材は機能的にも注目されています」と語る。ウールというと、コートやセーターなど秋冬物をイメージしがちだが、靴下などインナー用途など、その価値が見直されている。「ウール自体が呼吸している素材なので、暑い時には涼しく、寒い時には温めてくれる。さらに消臭効果もあるんです」
ウール素材の表面にはうろこ状のキューティクルのようなものがあり、内側に芯状のものがある。そのうろこが蒸気を感じると開いて、外に吐き出そうとして体温調節し、ドライに保つことができるので菌を抑制できる仕組みだという。
宮田毛織では、自社の生地にプリントを施す事業も展開している。写真は綿ナイロン素材
岩田は「コットンは植物にとって最適に育てているため、熱を保持する特徴があります。ですが、羊は夏もウールをまとって生きています。羊飼いに聞くと、真夏に毛を刈ると羊は直射日光を受けて死んでしまうそう。羊という生き物に生える素材だから、人にとっても良い素材と言えるんです」と解説する。最近は、高品質なウール素材のパジャマは「リカバリーウェア」として人気があるという。
ひつじサミットをきっかけに、尾州ウールの生産者として宮田は広く知ってほしいことがある。「製品のタグを見ると、中国製などと書いてあっても、実は中国で縫製されているだけで、生地は日本製だったりします。またウールの染色技術は非常に難しく、生地によっては色がつくもの、つかないものがありますが、尾州産地ではどんな繊維でもよく染まることなど、産地ならではの特色に興味をもってもらいたいです」
宮田毛織では丸編み機を180台以上保有し、国内外のアパレルブランドにニット生地の企画製造販売を手がける
ひつじサミットでは、サステナブルエンターテイメントを掲げたものの、岩田は「ファッション産業はSDGsのなかでも問題児」と語る。「ですが、ウールそのものの持続可能性や環境に配慮した生産方法などを自分たちから発信していきたい。私たちには伝える責任があります。本来、ファッションって楽しいものですよね。羊ってかわいいよね、ということを入り口にして楽しみながら知ってもらいたい。これが一番の思いです」
全国には、地場産業の工場見学やものづくりに焦点を当てた観光産業の成功事例は多数ある。30、40代のアトツギたちが企画するひつじサミットは、尾州産地にどのような新風を送り込むか。今後は、産地の変化をお伝えしたい。
地元の大学生に、パリの展示会で発表したテキスタイルコレクションを紹介する岩田。次世代に尾州ウールの魅力を伝えていくことが使命だ