研究チームが4月15日に米科学誌セル(Cell)で発表した論文によると、今回の実験ではサルの胚にヒト幹細胞を注入して異種の細胞を持つ「キメラ」胚をつくり、培養して成長させた。
この胚はその他の動物の細胞を使って過去に行われた実験よりも長い期間、19日目まで生存したという。これにより、ヒトの胚では行うことができない研究への新たな可能性がもたらされたと考えられている。
研究チームは、今回の実験は「倫理面で重大な懸念」があるものの、ヒトの発生に関する新たな知見を提供するものになると同時に、移植用の臓器をつくることをはじめ、再生医療の発展に役立つ可能性があると述べている。
論文の最終著者であるソーク研究所のファン・カルロス・イズピスア・ベルモンテ教授は、「私たちには科学者として、整備されているすべての倫理的、法的、社会的なガイドラインに従い、慎重にこの研究を行う責任がある」と発言。倫理的な問題については、実験を開始する前に「徹底的、かつ詳細に」見直しを行っており、それがこの実験の「指針」にもなったと説明している。
「今後」が問題
異種の細胞の組み合わせであるキメラ、特にヒトまたは霊長類の細胞を持つキメラには、賛否両論がある。特に、倫理的な面で争点となる問題が多い。実験に有用なものとするには、あるいはいずれヒトの臓器をつくり出すためには十分に「ヒト」である必要がある一方、実験から保護されて当然とするほどには、十分に「ヒト」ではないためだ。
今回の実験では胚が実験室で培養され、生存したのが短い期間であったことから、そうした問題の多くに迫るものとはならなかった。だが、大きな前進ではあることから、このような実験が倫理的に許容されるべきものかどうかについての議論を再燃させている。
英オックスフォード大学のジュリアン・サブレスキュ教授(実践倫理学)は、「(この研究を巡る)最も困難な問題は、今後にある」と指摘する。それは、研究が「パンドラの箱を開く」ものになるからだ。
サブレスキュ教授によれば、この種の研究の長期的な目標の一つであるヒトとそれ以外の動物の細胞を持つキメラの開発が成功するのは、「時間の問題」。「つくられたキメラで実験を行う前には、その生命と知的能力について、評価を行う必要がある」という。